WONK:音楽性をシームレスにつなぐ
エクスペリメンタル・ソウルをキーワードに新世代のグルーヴ感覚を織り交ぜたサウンドで注目を集めるバンド、WONK。ジャズやR&Bといったトラディショナルな楽器演奏に加えて、ヒップホップのサンプリングなどをミックスした彼ら独自のクリエイティビティを発揮するために、Liveは欠かせない存在だ。
学生時代にプログラミングの授業でLiveを体験したという、バンドリーダーでありドラマーの荒田洸は、Simplerのスライス機能やMax for Liveのパッチを駆使しながら、LiveとPushのみでビートメイキングを行っている。Apple LogicからLiveへ移行したキーボーディストの江﨑文武は、鍵盤を弾いて作曲する従来の手法から、LiveのDrum Rackを用いるようになったことで、音楽制作の幅を広げた。バンド音源のミックスも手掛けるベースの井上幹とヴォーカルの長塚健斗も含め、メンバー全員がLiveを操るWonkにとって、オンライン上でファイルをやり取りしながら音楽を作り上げるプロセスが制作の主流になっている。録音した演奏をエディットするのみならず、サンプリングを取り入れる彼らにとって、LiveはいわゆるDAWというよりも楽器のようなものに近い。
最近では、4枚目のアルバムとなる『EYES』や、香取慎吾への楽曲提供のほか、King Gnu、堀込泰行、iriといった多彩なアーティストとコラボレーションを行い、さらなる注目を集めているWONK。今回のインタビューでは、メンバーが気に入っているLiveの機能を始め、音楽制作面はもちろん、ライブパフォーマンスにおけるLiveの使い方まで、WONKとLiveの関係性について語ってもらった。さらに井上幹はLiveセット“MADSAMPLE”を提供してくれた。サンプルのスライス設定を垣間見ることができる内容となっているので、ぜひダウンロードしてチェックしてみてほしい。
WONKは音楽制作だけでなく、ライブパフォーマンスでもLiveを使っているそうですね。
江﨑文武:Liveには作った音を保存する機能があるので、ライブラリーに音を溜めていって、自分たちのライブではレコーディングで作った音をそのまま出力しています。Liveはオーディオエフェクトを使うときのインターフェースがすごくわかりやすいと思っています。ドラッグ&ドロップですぐにエフェクトを適用できるし、MIDIのプログラムも簡単で、たとえばライブ会場で音を少し調整するときでもすぐ対応できます。そういう意味でも現場にも適したDAWだと思います。
井上幹:僕はLiveの使用歴は比較的浅いのですが、Liveはライブの現場に向いていると思う点がいくつかあります。まずソフトウェアが安定しているから、起動時に落ちないこと。あと、他のDAWにはないセッションビューだと、ライブ中に画面に波形が並んでいなくても何がどうなっているかわかるのは利点だと思います。あとはループセクションから次の展開に行くときなどに、マーカーをつけて好きな場所へフレキシブルに移動できるのも便利ですね。僕はMax for Liveでパッチを作ってライブで試すこともあります。
江﨑文武:つい先日、Pushを使ってライブをやったのですが、Pushでちゃんと演奏できるまでいろいろと仕込む機会がありました。それは整理というか、Pushのパッドにすべて収まるようにトラックをまとめたり、各サウンドを色分けしてわかりやすくしたりする作業だったんですけど、やっているうちに制作はもちろんのこと、ライブパフォーマンスを想定した設計にもなっていて、よくできた機材だと思いました。
話を聞いていると、WONKは生楽器とLiveを調和させて使っているような印象を受けますね。
江﨑文武:音楽のジャンルによるのかもしれないのですが、僕たちにとってはごく自然にLiveが存在しています。ソフトウェアというよりも楽器という感じで使っているイメージですね。僕はライブパフォーマンスでもLiveを音源として使っていて、それぞれの楽曲に合わせて、MIDIキーボードのパラメータにエフェクトなどを設定しています。
みなさんそれぞれが感じている、Liveの良さとは?
井上幹:僕にとってLiveは偶然性のある音楽制作ができて、その部分に人間性があるDAWだという印象があります。たとえば僕がLogicで何かを制作するとしたら、自分が思い描いているイメージをどう具現化するかという作り方になりますが、Liveで作曲するときはサンプルをチョップしたら自動的にワープされたり、Max for Liveのパッチを使ったら、自分の想像とは違ったものが出来上がったりもして、制作過程で偶発性があるところに個性があると思っています。
長塚健斗:僕は歌のレコーディングでDAWを使うだけだから、今回の取材でしゃべることはあまりないのですが、たとえばLogicだと音をミュートするときにボタンをマウスでクリックしますが、Liveはキーボードの[0]を押せばミュートできるので、すごく操作しやすいなと思っています。
操作性がいいというのは、DAWにとってはとても重要ですよね。
荒田洸:波形を[Cmd + E]キーでサクっと切れたりするのはすごくいいですね。こういう細かい部分の使い勝手がいいところが、Liveの良さだと思っています。あとは自分でショートカットを簡単にアサインできるのもいいですね。僕は[R]キーで録音できるようににしたり、数字の[1]キーに曲の頭へスキップするコマンドをアサインしたりして、作業効率を上げています。あと、これはすごく細かいことですが、トラックをグループ化したあとで、そこに新しいトラックを入れていくと色が全部同じになるのも気に入っています。
江﨑文武:確かに色でトラックを識別できるのはいいね。Liveは最初から色がひとつずつバラバラになっていて、まとめると同じ色になるから単純に見やすい。あと、僕は内蔵シンセの音がすごくいいと思っていて、WONKの曲でも結構使っています。Abletonのショップページではほかの人が作ったプリセットのパッチがダウンロードできるし、Live 10から搭載されたWavetableでもいろんなユーザーが作ったパッチがあって、それを試したりもしています。そういう意味では購入した時点の状態からさらに充実していける面白さがLiveにはあると思います。あと、オートメーションのプリセットをどんどん試せるのもいいですね。わざわざ最初から自分で細かく書く必要もないし。僕はシンセのパートによくオートメーション機能を使っています。
ほかにもお気に入りの機能や使い方があれば教えてください。
井上幹:やっぱりワープ機能ですね。テンポやピッチを変える機能はどのDAWにもありますが、Liveのインターフェースと解析機能は一番優秀だと思います。ワープの挙動にも“Beats”や“Complex”などの種類があるし。波形サンプルのピッチ補正に関しても、他のDAWだと波形自体を加工するかプラグインでピッチをいじるのかって感じになりますが、Liveはファイルを読み込んだ際にすでにサンプラーに入っているようなインターフェースだし、テンポを変えてもピッチが変わらない設定が、MIDIでもオーディオでも簡単にできるので気に入っています。
江﨑文武:僕らは曲を作っている途中でテンポを変えることがよくあって、そういったときもLiveは簡単に設定できるので便利です。
荒田洸:あとはエフェクトのBeat Repeatをサンプルにかけたときに、パラメータにLFOを簡単にアサインしてオートメーションみたいに変化させられるので、そういうときに偶然性のある音が生まれることがあります。
WONKはLiveを用いてステージ照明のコントロールを予定しているようですね。
井上幹:これまでWONKのライブではサンプラーとかを音源として使っていて、基本的には同期させない……つまりクリックを共有しないで演奏する曲のほうが多かった。でも、次のWONKの作品は、シンセや効果音が多く含まれたコンセプトのある内容で、ライブでやるときに生楽器の演奏だけでは足りないし、かと言って同期の音を足すだけだと面白くないから、照明もコントロールしてみようと思ったんです。Liveには照明をコントロールできるプラグインがあるのと、同期音源と照明のコントロールを同じ画面内でできるんですよね。なので、Liveに同期音源を入れて、その下に照明をコントロールするようなMIDIトラックを配置すれば簡単にできるし、テンポもセクションで変えたりもできる。あと、クリックをほかのコンピュータと共有できるのも便利で、同期の共有がしやすいんです。
今後、Liveをどんなふうに使ってみたいなど、展望はありますか?
江﨑文武:ライブで映像の同期をやってみたいと思っています。VJがLiveを使ってシンセのパラメータと同期させながら、映像をリアルタイムで加工したりするのを見て、ああいうのを自分でもやってみたいなと。映像や照明の操作を、楽器の身体性と関連づけるために、Liveをもっと活用したい気持ちがありますね。
井上幹:WONKのライブは長さが決まっていないソロなどの即興パートがあったりして、そういうときにクリックに合わせた同期の音源だけだと、一本調子になって面白味に欠ける部分があると思っていて。なので、クリックを上手く活用する部分とそうではない部分をシームレスにつなげるようなセッションを組めるようになりたいと思っています。
荒田洸:Liveは波形編集の機能が優れていると僕は思うので、たとえば環境音からアンビエントっぽいパッドシンセのようなものを作るとか、新しい音作りに挑戦したいですね。Max for Liveなどを使ってもっと偶然性のある音楽制作を探求したいなと思っています。
つい先日、リモートセッションで『HEROISM』を動画としてアップしていましたが、あの状況下ではどんなふうにLiveを使いましたか?
井上幹:あのとき僕は、単純にLiveを録音用のDAWとして使っていました。文武は音源としてLiveを使っていて、荒田はDrum Rackを演奏していたと思います。
江﨑文武:僕たちの普段の制作環境に近い使い方でしたね。あのセッションの僕のリードシンセはすべてLiveの音源を使っています。
リモートセッションをはじめ、会場でライブができない今の状況のなかで、DAWのテクノロジーをどうやって活用するかというのは、多くのミュージシャンが考えていることだと思います。その点はどう考えていますか?
井上幹:今回のリモートセッションは、SpliceというクラウドサービスとLiveですぐにできました。そういう意味でも制作面に関してはまったくストレスもないし、便利という視点ではくるところまできたなという印象があります。もちろんリモートでリアルタイムのセッションとなるとレイテンシーなどでまだまだ問題はありますが、これからはパフォーマンスの面でLiveを用いてどう面白さを出せるか、だと思っています。あとはDAWにはどんどんAI機能が入ってきているので、これからはそういうテクノロジーを使ってどんなことができるのかに興味がありますね。
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文/インタビュー:Daisuke Ito