A/V対談: 音楽とビジュアルを駆使したパフォーマンス
デジタル技術によって異なる制作手法をスムーズに組み合わせることが可能になりました。そんな中、音楽の世界で(とりわけライブパフォーマンスにおいて)重要になっているのが視覚効果です。スペインのLEV Festivalに代表されるように、A/Vパフォーマンス(オーディオヴィジュアル・パフォーマンス)に特化したアンダーグラウンドなフェスティバルは今や珍しいものではありません。大規模の音楽イベントではプラットフォームの異なる表現を組み合わせるパフォーマンスが何年もスタンダートになっています。Kanye West、Taylor Swift、Katy Perryらのスタジアム級ライブの映像を見ても、そのことが分かると思います。ある程度の規模のイベントになると、ミュージシャンは自分の音楽にとって視覚表現が重要であるかどうかをかかわらず、オーディエンスのためにA/Vを導入を検討することになります。
自分でビジュアル面も手掛けるミュージシャンも中にはいますが、大半のA/Vパフォーマンスはビジュアルアーティストとのコラボ―レーションです。分野の異なるアーティストと作業するのは大変ではありますが、様々な部分でパフォーマンスを向上させて、これまでとは違うものへ変えていくポテンシャルがそこには秘められています。昨年の「Loop」で行ったパネルディスカッション「A/V Interchange」では、音楽のビジュアルを制作している3人のアーティストを招き、音楽とのコラボレーションで目指していることについて語ってもらいました。
音楽の視覚化
分かりやすいA/Vとして、鳴っている音に合わせて波形や色などのビジュアルを変化させるアプローチが挙げられます。Raster-Notonはこの手法を頻繁に取り入れています。Raster-Notonを設立した3人であるCarsten Nicolai(aka alva noto)、Olaf Bender(aka Byetone)、そして、Frank Bretschneiderは、ビジュアルを各自で制作しています。それぞれに独自のスタイルがありながら、幾何学的デザインで共通しているほか、音楽に同期したビジュアルが頻繁に使われます。
Frank Bretschneiderはメールで次のように語っています。「コンセプトがあるわけじゃないけど、イラストは使わないようにしている。あと、ストーリーのようなものも設定しない。だからシンプルなものや幾何学模様みたいに抽象的な形を使うことが多い。スタイルは映画っていうよりもアニメーションに近い。機材のLEDと同じで、映像は楽曲のパラメーターを示しているんだ。点と線、数字、バーなんかを点灯させたり、動かしたりしている。通常、僕はビジュアルを音楽にしっかりと同期させている。うまくいけば、サウンドをビジュアルで表現することができるんだ。プロジェクトごとに違う手法を取り入れているよ。”Kippschwingungen”では、Modul8のパーティクル・エミッターを使った。高中低それぞれの周波数帯域に赤青緑の色を対応させて、音に反応してビジュアルが変化するようにしたんだ。音の鼓動に合わせてビジュアルが動くようになっているんだけど、大きさ、表示場所、変化のスピードを変更できるんだ。”Super.Trigger”で使ったのは、Octatrackのシーケンサーから出力されるMIDI信号だよ。このMIDI信号はOctatrackの内部音源を鳴らすために使われているんだけど、このときはModul8のレイヤー映像を操作するためにも使ったんだ。円、四角、線の白黒図形を組み合わせたものがレイヤーに含まれていて、何かしら音が鳴ると、それに対応した模様が現れるようになっているんだ。だからどんな音を鳴らしても、ビジュアルが反応する」
彼よりもコンセプチュアルな例として挙げられるのがAlva Notoの"Uni Acronyn"です。見覚えのあるブランドロゴやアイコン画像が矢継ぎ早に転換し、ボーカルのAnne-James Chaton無感情にロゴの文字を読み上げる間は、ロゴが長く表示されるようになっています。それにより、消費者主義を批判する一貫したスタイルの映像表現が誕生しています。
Raster-Notonよりもさらにミニマルでダイレクトな表現を行っているのが、アーティストのLuisia PereiraとManuela DonosoによるHarmonic Seriesです。メジャー、マイナー、ディミニッシュといったコードをリサジュー図形によるハーモニック・パターンとして視覚化し、3Dプリントでその放物線の模様をオブジェにしています。
没入型環境
音楽を軸にしたセッティングでは、意識を引きずりこむようなビジュアルパターンを使って没入型環境を作ることがよくあります。例えば、Robert Henkeの音と同期したレーザーを用いるパフォーマンス「Lumiere」があります。ひとつのテーマを繰り返し用いる手法も没入型環境でよく使われており、Holly Herdonの"Chorus"でPCの画像をデジタル処理したAkihiko Taniguchiによる映像がこれにあたります。こうしたA/Vはインスタレーションとして発表されるのが一般的です。
少量の素材を使って没入型環境を生み出すグループもいます。Noemi SchipferとTakami NakamotoによるユニットNanotakもそのひとつ。白色のLEDライトと音楽を軸にして、素晴らしいA/Vを表現しています。ふたりは苦心しながらも革新的なインスタレーション作品を生み出してきました。
インスタレーションは会場固有の性質や特徴に大きく影響を受けますが、中にはその場所ならではの要素を浮き彫りにする作品もあります。例えば、ANTIVJと共にプロジェクションマッピング・プロジェクトを数多く手掛けてきたアーティストのRomain Tardyがいます(”ビジュアル・レーベル”を自称するANTIVJはMurcofなどのミュージシャンに没入型映像を制作してきたグループです)。ミュージシャンのThomas Vaquiéと制作した「O(Omicron)」というインスタレーションは実在する建築手法に沿ってデザインされました。そうすることで会場固有の一面を浮き彫りにしようとしたのです。Squeaky Lobsterと制作した「The Ark」では自然の地形の中で同様のことを試みました。Tardyは次のように語っています。「場所や建物を単なる物体として捉えるのではなく、そこに特定のコンテクストを見出すのが面白いんだ。提示された場所と時間で得られる体験に関わるものはすべてコンテクストに含まれる。周囲の気温、話されている言語、社会背景もそうだし、会場そのものも含まれる。建築物としてだけでなく、歴史の一部としてもね。自分の知らないものや分かっていないものに囲まれるのが好きなんだ。圧倒されそうになることがあるよ。でも、面白いものを作るときにはそういう自分の趣向が最善だとは限らない」
「プロジェクション・マッピングという行為を客観的に考えたとき、テクノロジーは何かを可能にするものであると同時に、何かを制限するものでもあると僕は思う。デジタル・プロジェクターはこの20年で手に入れやすいものになって、ビジュアルアーティストは大規模のビジュアルを扱うプロジェクトに数多く携われるようになった。一方で、プロジェクション・マッピングは単に技術の進化によるものではなくて、本質的には考え方の変化による産物だと僕は思っているんだ。プロジェクション・マッピングは、プロジェクターを屋外に持ち出して、スクリーンの代わりに3次元の物体へ映像を映し出しているだけに過ぎない。技術的に言えば、何ら特別なことではないんだ。プロジェクターを屋外に持ち出して、平面のキャンバス以外に映し出すという行為は、芸術の歴史の中にはよくあること。システィーナ礼拝堂みたいな人類初の没入型ビジュアル環境(もっと歴史を遡るならラスコー洞窟)から、変形キャンバスを使ったEllsworth Kellyみたいな近代画家まで、平面の絵を3次元に置き換える行為は、芸術学が生まれてから何度も研究テーマになっている。こう考えると、AR(拡張現実)のコンセプトは新しくはないよね」
「最新技術の進化やツールを意識するのは素晴らしいことだと思う。今の時代にしっかりとつながっているということだからね。それに、アーティストは制作の技術面について少しくらいは考えを持っておくべきだ。でも、そこに重点を置き過ぎると本質的なことを見失ってしまうんじゃないかな。技術的な視点ではなくて人間的な視点が大事だと思う。このことを意識しておくのは本当に大事なんだ。制作の大半でコンピューターを使う人は特にね。会場ならではのプロジェクトが好きな理由もそこなんだ。会場という存在を避けて通ることはできない。だけど、そこは感動と刺激に満ち溢れている」
デジタル・ソフトウェアが当たり前に使われるようになりましたが、昔ながらの方法でA/Vを表現することも引き続き可能です。そのことを証明しているのがPaul Clipsonです。Grouper、Lawrence English、Jefre Cantu-Ledesmaといったアーティストとライブでコラボレーションしてきた彼は、16mmフィルムとプロジェクターを使用することで、ざらついた画質の映像を瞬時に生み出します。
ストーリー/世界観の構築
エレクトロニックミュージックとサイエンス・フィクションの相性がいいと感じる人であれば、音楽関連のビジュアルを見ると想像力がかきたてられると思います。音楽は特定のストーリーをもとに制作されていることがあります。Drexciyaの音楽などはまさにこれにあたります。通常、ビジュアルの雰囲気を決定づけるのは音楽ですが、独自のストーリーを表現するビジュアルもよく見かけます。その例として確実に挙げられるのは、Paul Jebanasamの「Continuum」で映像を制作したTarrik Barriでしょう。
Kode9のアルバム「Nothing」のアートワークやトラックタイトルから察するに、このアルバムの音楽コンセプトが、彼とLawrence LekによるA/Vパフォーマンス「Nøtel」の核となっているようです。無人となった未来の高級ホテルをドローンが飛び回る光景は、まさに音楽とサイエンス・フィクションの融合です。テーマとセッティングが徹底して作り込まれているだけでなく、このパフォーマンスを見た人は分かると思いますが、画質が非常に高い解像度になっています。
印象に残る光景
繊細さとは異なり、壮大さにはオーディエンスをハッとさせる力強さがあり、大きな印象を残します。映像に頼らなくても、照明(特にストロボライト)を使うことで壮大な光景を生み出すことができます。しかも照明技術が進化すれば、面白いことが簡単にできるようになります。
照明・映像アーティストであるMFOはミュージシャンとコラボレーションを行い、著名な作品を生み出してきました。彼の作品では照明と映像が両方使われることもありましたが、Ben Frostの「Aurora」ツアーでは、比較的シンプルなアイデアで大きなインパクトを生み出せることを証明しました。
エレクトロニックミュージシャンでありマルチ奏者でもあるRick Fedsとインスタレーション・アーティストDejha Tiによるコラボレーションでは、音楽を視覚化し、演奏にリアルタイムで反応する映像が制作されています。Tiのインスタレーションでは、部屋の長さいっぱいに照明を設置し、前面にスクリーンを掲げることで、サウンドに反応する壮大な空間を生み出しています。こうした規模感を意識してインスタレーション作品を制作することが大切です。
Fedsはコラボレーションについて次のように解説しています。「PushのパッドひとつひとつからMIDI信号がAbletonとResolumeに送られるようになっている。別のプログラムを使うこともあるよ。各パッドには画像や照明を割り当てているんだ。短い音もあれば、長い音もあるよね。それは映像でも同じなんだ。パッドを押し続けている限り、映像や照明が点灯する。ふたりでコラボレーションしたときは可能な限り、ひとつひとつの要素が対応し合うようにした。時差のある中での制作だった。アイデアやサンプルをやり取りしながら作業を進めたよ。パフォーマンスの1週間前からは1日20時間かけて、画像がそれぞれビジュアルに対応するようにした。Dejhaがパフォーマンス用に作った画像は三角形ばかりだった。その中から音に合うものを選んだよ。今回が初めての試みで大変だったけど、まだまだできることはたくさん残されている」
「ビジュアルアーティストと一緒に制作するときに一番難しいのが、実際にパフォーマンスをすること。僕はループや長めのサンプルみたいなものを一切使わなくて、すべての音を指で鳴らしている。だからどう演奏するのかを全て覚えていないといけないんだ。ビジュアルでもそれは同じことだから、画像も全部覚える。さらに、僕らは7.1チャンネルのサラウンドシステムを使ったんだ。いくつかのパッドは手動でパンニングできるようにした。このトラックはかなりパーカッシブだね。僕はもともとジャズをやっていたから、少し即興演奏するのが好きなんだ。そうすることでパフォーマンスに新鮮なバイブスとエネルギーを加えられる。でもそうするとビジュアルの方が少しごちゃごちゃしちゃうから、演奏し過ぎないように気を付けるのが大変だった。僕にとっては間違いなく試練だったね」
実験性
「Loop」のパネルディスカッションでSougwen Chenが指摘していることですが、新しいことを試すのが目的だというアーティストがいます。制作プロセスに重点を置く場合だと特に、実験性によってパフォーマンスを面白くすることができます。ビジュアルアーティストのHarm van den Dorpelがアルゴリズムから生成した「Lexachast」の映像は、ページを更新するごとに変化します(音楽を提供しているのはBill LouligasとAmnesia Scannerです)。このコラボレーションは様々なフェスティバルでも披露されています。ビジュアルのライブ操作を担当するvan den Dorpelはその仕組みについて次のように語っています。「僕のアルゴリズムはインターネットからランダムでアダルトな画像を見つけてきてゆっくりと表示するようになっていて、フェードイン・アウトしながら映像のライブストリーミングを行うんだ。規模のでかいKen Burnsエフェクト(静止画をズームインやパンニングする手法)みたいなものだね。画像を表示させる工程には、オープンソースのアダルト画像識別モデルとword2vecのタグクラウド分析を使った。大量のデータから相応しい画像をリアルタイムでキュレーションして、MIDIでコントロールできるようにプログラムしたOpen GLのソフトウェアとミックスしたんだ。そうすることでどことなく殺伐とした雰囲気になる。例えば絵画で全色を混ぜ合わせるとすると、焦げ茶色か濃い灰色になるよね。子供のときゴミ捨て場の前をバイクで通り過ぎることがよくあったんだけど、全部のゴミをひとつにしたら、いろんな匂いが一緒になって独特の香りになるんじゃないかなって思ってた。それと同じことが「Lexachast」では起きているんだ。すべての画像が一緒になると、数の多さと無作為性から、何らかの”まとまり”が生まれる。調和と言えばいいのかな。独特の感覚があるんだ」
Nosaj ThingからBjörkにいたるまで、幅広いアーティストとライブパフォーマンスでコラボレーションを行っているDaito Manabe。彼はデータをリアルタイムで操作するクリエイターです。同じように、Aphex Twinに提供したWeirdcoreの作品でも、オーディエンスの頭上にドローンを飛ばして撮影したリアルタイム映像が頻繁に使われています。
ビデオアーティストとして名高いLillevanは、抽象的な映像ながら深い感情を喚起する独自のスタイルで知られています。20年以上にわたって活動してきたLillevanの映像には、あらゆるスタイルが含まれています。Vladislav Delayと行ったパフォーマンスはAndy Warholの「Screen Tests」を彼なりに解釈して即興で表現したバージョンだと言えるでしょう。
アニメーター兼ビジュアルアーティストのRueben Sutherlandとプロデューサーも務めるミュージシャンDan Hayhurstが実験的に始めたプロジェクトSculptureはアナログとデジタルを融合した作品を生み出しています。1年ほど近所づきあいがあり、互いの作品をよく知っていたというふたり。初めてのパフォーマンスでは、リハーサルを行わず、相手が何をやるのか知らない状態で臨んだそうです。Hayhurstが2014年のインタビューで説明しているように、Sutherlandの制作は基本的に「フェナキストスコープのような円盤とビデオカメラを使ったアニメーション技術を取り入れて」います。さらにHayhurstは彼らの映像作品にデジタル要素を盛り込む方法や、音楽にアナログ要素を盛り込む方法についても細かく語っています。「勝手にリアレンジが行われるようにした。Reubenの場合、アニメーションを印刷したカードをライブラリーのように何百枚も使っているんだ。映像はPhotoshopやAfter Effectsからその場で生成されて、実際の紙に写される。アナログテープを実際にカットアップしたり、サンプラーやCDJとかハードウェア機材の演奏をデジタル技術と組み合わせてサウンドを分解・再構築したりするんだ。その間はずっとLiveを使っているよ」
Merkaba Macabre名義で活動するSteven McInerneyも既存の映画を利用するアーティストで、彼が「解体」と呼ぶ処理を施しています。この処理ではハードウェアの音楽機材が映像に反応するようになっています。映像が音楽に反応するBretschneiderやFedsとTiの作品とは逆のケースです。McInerneyがメールで次のように明かしてくれました。「映画で使われるカラーのネガフィルムを解体処理にかけるんだ。自然な処理と化学的な処理がある。そこからカラープリントができあがる。映像を流している間は、ぐしゃぐしゃになった感光材の音をモジュラーシンセのプリアンプへ送る。そこで現像フィルムが電圧制御された音声信号に変換されるんだ。解体されたフィルムの輪郭や形や色がリアルタイムでシンセに置き換えられる。トリガー、ゲート、エンベロープの電圧信号が現像フィルムから作られて、モジュラーのパラメーターがリアルタイムで変化していくんだ。各ライブは以前のライブを再利用・再解体したバージョンなんだ。現像フィルムに続いて複製ネガが同じ解体処理にかけられて、再びプリントされる。だからどのライブも全く違ったものになるよ。制作過程はいろいろあって、カラーのネガフィルムを生ごみの中に入れてセルラーっぽい感じにすることもある。フィルムを覆っているゼラチンをバクテリアが食べているんだよ。フィルムを熱湯で煮て網目模様にしたり、有機化合物と一緒に凍らせたりもする。その間は自然の過程に任せて、自分からはフィルムに手を触れないようにしているよ。そんなやり方だからフィルムがたくさんダメになっちゃったけど、学べることが多くあって面白いよ」
Tarrik BarriとJern The Misfitが理想例として挙げているように、こうした手法をすべて盛り込んだビジュアルも実現不可能ではありません。没入型環境と壮大なビジュアルを両立させることだってできるのです。アートフォームを進化させるにはいろいろと試してみるのが一番です。ビジュアルと音楽と組み合わせる方法が他にも見つかるかもしれません。ビジュアルを音楽にどう作用させるのか? 自分なりの方法を考えてみましょう。