おおまかに「サウンドアート」と定義されている分野に、今、注目が集まっています。ニューヨークのMOMAやメトロポリタン美術館などの有名な団体がオーディオ作品の展覧会を開催したり、CTM、Mutek、Unsoundといったエレクトロニック・ミュージックのフェスティバルでは、サウンドを彫刻作品、パフォーマンス、ビデオ、その他の音楽以外の分野と結びつけた作品が多く盛り込まれるようになっています。
この文脈において、モントリオールを拠点に活動するNicolas Bernierは、現在最も注目を集めるアーティストのひとりといえるでしょう。彼は、自身の作品を、過去のオブジェクトを用いて作成し、現代的な手法(LiveとMax for Liveを含む)を用いて操作するエレクトロニック・ミュージックであると説明しています。その洗練された手法に加え、Bernierは知性と肉体的感覚の見事なバランスを実現させており、それは「frequencies (a)」にもはっきりと現れています。この作品で、彼は名誉あるArs Electronica Golden Nica for digital musics and sound artを受賞しました。
Golden Nicaの受賞おめでとうございます。「frequencies (a)」での音叉を使用するアイデアはどこから生まれたものですか?
音叉のアイデアはかなり前からありました。ノイズやオブジェクトをベースとするサウンド・パフォーマンスに安定したピッチを組み込む方法を探していたときに思いついたものです。トーナルな要素として一般的な楽器を使用することを避けたいと思っていました。旧式の物を使用することが多いので、音楽、サウンド、新旧の技術の間の関係についてはいつも考えを巡らせています。音叉の使用はパーフェクトだったと思います。音叉はもともと科学的な精密ツールとして使用されていましたし、調性音楽を象徴するものでもあり、また何よりも、エレクトロニック・ミュージック作品で使用される非常にプリミティブなサウンド、純粋な正弦波に近いサウンドを生成するオブジェクトでもあります。私はまず、あらゆる種類の音叉を集めることから始めました。440Hzより低い19世紀のものから医療用として使用されている最近のものまでさまざまな音叉を集めました。どこへいくにもそれらを持参し(当時は今よりも即興でやることが多かったのです)、それらを使ってファーストアルバム(Crónicaから2010年に発表した「strings.lines」)を制作しました。徐々に音叉にはまっていき、私にとってある意味一番重要な楽器となりました。ただ、手動で音叉を操作したのでは思った通りの正確さが得られないことに不満でした。音叉のオートメーションのアイデアはそこから生まれたものです。
「frequencies (a)」を演奏する際の理想的な条件とはどのようなものですか?また技術面でのセットアップは?
モントリオールで開催されたElektra Festivalでは最高のコンディションで演奏できました。100名が限度の小さな会場で、3日間にわたって「frequencies (a)」のパフォーマンス専用にセッティングされました。これは本当に贅沢なことでした。エレクトロニック・ミュージックのフェスティバルでは、会場が広く、大型ビデオスクリーンがあり、新しい環境に合わせてセットアップを調整する時間が与えられることはないのが一般的ですから。このようなセッティングであるのには理由があることは分かっていますし、文句を言うつもりもないのですが、作品によっては要件が異なることがあるのも事実です。「frequencies (a)」もそうでした。通常のパフォーマンス形態を想定した構成ではなく、特別な条件を要する作品でした。音叉、小型ソレノイド、微音、精密部品などの小さな物体を扱う作品なので、オーディエンスの近くで演奏しなければなりません。壮大さにではなく親密さに重きを置いた作品なのです。
機材については、Laurent LoisonとOlivier Lefebvreの協力を得て、音叉と、音叉を作動させるソレノイドの台となるアクリル製の構造体を作成しました。音叉とソレノイドは、カスタムのライティングテーブルのコンタクトマイクと光束につながっています。
このテーブルには電子機器(USB/DMXボード)も隠されています。光とソレノイドに送られる電圧はすべてこのボードを介して送信されます。残りは、作品、オーディオビジュアルのシーケンスを時間内にまとめるという作業です。これにはAbleton LiveとMax for Liveを使用しています。
エレクトロニックな要素とメカニカルな要素を組み合わせて作品にするというアイデアはどこから生まれたものですか?
エレクトロニックな要素とメカニカル/フィジカルな要素のこのような関係こそが、エレクトロニック・アートの分野で作品を作りたいと思ったきっかけそのものでした。今でこそこれらの間のやりとりはスムーズなものになりましたが、10~15年前はラップトップのパフォーマンスが理想的になってきたところで、作品のほとんどは完全にデジタルであるか一切デジタルを含まないかのどちらかだったので、このようなミックスは非常に魅力的でした。
それ以来、私の作品は常にコンピューターによりプロセスされるフィジカルな要素を使用したものになっています。アイデアやプロジェクトのきっかけはいつもフィジカルな世界からやって来ますが、このアイデアを表現する手段には必ずコンピューターが必要となります。しかし私にとって最も重要なのは要素のバランスです。完全に「自然」や完全に「デジタル」な作品を作成することのないよう心がけています。本当のところ、自然とバーチャル/人工なものの間に差異はないと思っています。すべてはつながっていて互いにコミュニケートしており、いろいろな点でプロセスが加わっているのだと思うのです。
Ars Electronicaを受賞されましたが、受賞された部門はデジタル・ミュージックとサウンド・アートの分野でしたね。ご自身では、第一にミュージシャンであるとお考えですか?
芸術そのものに大きな興味を持っていますが、そこに「カテゴリ」がある理由についてはよく理解できません。政治的または歴史的な理由があったのなら別ですが…。とはいえ、私が用いる主な媒体はサウンドであることは争いようのない事実ですし、きっとこれからもずっとサウンドを用いて作品を作っていくと思います。ただし私の興味はあらゆるところにあり、それが作品に多様な影響を与えています。何かに感銘を受けるとき、それがどのカテゴリに適合するかということは考えません。それは作品を作るときも同じです。ただ必要なことをするだけで、こちらのカテゴリか、あちらのカテゴリかということを考えることはありません。ですから、たとえ私の媒体はサウンドであっても、パフォーマティブなもの、シアトリカルなもの、ジェスチャー的なもの、ビジュアル的なもの、そしてもちろん音楽的なものについてしばしば自問するのです。
新作「frequencies (synthetic variations)」と「frequencies (a)」の関係について教えてください。また今後の活動予定についてもお聞かせください。
「frequencies」は、純と不純の二分法に関するシリーズ作品で、アコースティック、デジタル、エレクトロニックの3つのパートに分かれています。これら3つの音の歴史的な進化の段階を訪ねるというコンセプトです。第1部の「(a)」は「オーディオ」や「アコースティック」を指しています。音叉はほぼ純音を生成するからです。Mutekで発表した第2部「(synthetic variations)」は、完全デジタルサウンドで作成しました。このパフォーマンスでは、「frequencies (a)」で使用したのとまったく同じシステムを使用していますが、音叉、ソレノイド、人間によるパフォーマンスなど、アコースティックな要素はひとつもありません。私にとって初めてのラップトップ・パフォーマンスですが、ビジュアル的にはフィジカルな要素にトランスレートされています。あらかじめ記述されたシンセサウンドのシーケンスと、小さなアクリル製の構造体内で同期するライトから構成されています。第3部についてはまだ秘密としておきましょう。
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Nicolas Bernierのウェブサイトでは作品の試聴が可能です。