音楽制作者だからといって、必ずしもコラボレーションが得意であるとはかぎりません。とりわけ、ひとりで何でもできてしまうエレクトロニックミュージックの制作者にとっては、第三者とのコラボレーションで役割を決めることさえ困難に感じられるものです。問題はそれだけではありません。「コラボレーション相手と同じ意識を持つ」という制作全体にかかわる問題や、第三者との関係を築くのに欠かせない「自主性、協調性、妥協の最適なバランスを見つける」という非常に厄介な問題もあります。
こうした問題を乗り越えられるのは、数年間の制作経験があり、独自の音楽観を明確に打ち出せている人たちがコラボレーションを行う場合なのかもしれません。ちょうどこのケースに当てはまるのが「Conviction」です。このEPは、多彩な一面を持つエレクトロニック・プロデューサーのふたり、Monologとして知られるMads Lindgrenと、SubheimことKostas Katsikasによる初のコラボレーション作品です。Monologの激しく容赦ないビートと重厚なベースライン。そして、Subheimの儚さ漂うメロディやみずみずしいアンビエンス。それぞれ独自のサウンドを確立しているふたりが、このコラボレーションで見事な融合を果たしてます。
今回のインタビューでは、ベルリンを拠点に活動するふたりに話を聞いてきました。コラボレーションの進め方、制作に使用したハードウェアやソフトウェア、そして、きめ細かく力強いミックスの方法など、「Conviction」の制作秘話に迫ります。さらに今回は、ふたりがEPの収録曲"Sumo Rimi"で用いたサンプルとデバイスを無料で提供してくれました(以下のリンクからダウンロード可能)。
ご注意 : 一部のLiveバージョンでは、このライブセットを保存できない可能性があります。
ふたりで一緒に制作するときの進め方について教えてください。役割は明確に分かれているんでしょうか? 共同で作業や作曲をするときと、ひとりで行うときの違いについても教えてください。
Kostas: たいていの場合、ビールを何杯か飲んでから制作を始めているよ(笑)。質問についてだけど、ふたりでバランスよく制作できる進め方は、思っていたよりもスムーズに見つかったんだ。音や曲作りに対して互いにかなり違うアプローチをとっているから、納得のいく進め方を早く見つけられて自分たちでも驚いているよ。大切なのは、作品の核となる部分を共通の意識で作れたことだね。ふたりでMadsの自宅スタジオに何時間もこもって、色んな音源をレコーディングして加工したり、メロディやリズムパターンをアレンジしたりしたんだ。実際はそのうちの数テイクがきっかけになって、ひとつの形にまとめられたし、それに合った作品の方向性を定めることができた。ふたりの役割は結構はっきりとしていたよ。俺たちがうまくやれたのはそのおかげかもしれないね。俺はメロディを考えたり、そのメロディを組み合わたりするのが得意で、なぜかいつもソングライティング的な考え方をしちゃうんだ。でも決断をくだすのは本当に苦手だから、今回はMadsの決断力に助けられたよ。おかげで俺のもやもやとした考えが整理できたし、Madsは熟練の技術で曲全体の構造を形にしてくれた。ドラムの音やビートの大部分はMadsが担当したんだ。びっくりするほどきれいにメロディパートと混ざり合っている。
トラックを作り始めるときは、どこから取り掛かることが多いですか? 音の組み合わせ、リズムパターン、もしくは、もっとコンセプト的なところから始めているんでしょうか? 曲を作り始めてから完成したと判断するまでのプロセスについて教えてください。作業を自動化したり、音を生成するプログラムを制作で使ったりすることはありますか?
Mads: 互いの表現を求め合うところから始まっているんじゃないかな。俺たちの場合、同じ視点を持っていれば、音楽の方向性が定まって、そこに適した感情表現ができる。他のことは自然とついてくるって言えばいいかな。個人的にエレクトロニックミュージックは、新しい音色を作って、音の世界をいちから生み出すことだと思っている。そこには実験要素が多く含まれていて、機材や楽器を本来とは違う使い方でいろいろと試してみるんだ。明確な制作手順や順序があったわけではなくて、ドラムのビートから始めることもあれば、Kostasに楽器やパッドの音を鳴らしてもらうところから始めることもあった。そもそも、制作の順序を細かく決めないことにしているんだ。いろいろと試して、制作に没頭して、作業を進めながらどうしていくかを決めるようにしている。
Kostas: そうだね。あと、ふたりともすごく似ているから、言い争いになることはほとんどない。互いのことが理解できる。それだけで制作の半分が終わっているようなものだよ。
ふたりの音楽には、とても細かく作り込まれた音やテクスチャーが使われていますよね。楽器や音源はどのようなものを使っていて、どんなサウンド・プロセッシングを施しているんでしょうか?
Kostas & Mads: 俺たちはふたりともリハーサルスタジオにこもってギターやドラムを爆音で鳴らしながら大きくなったんだ。まず、バンドで演奏しながら音楽の捉え方や制作の仕方を学んだあとに、エレクトロニックミュージックをやるようになった。ふたりの音楽歴が共通しているから、一緒に作業していてすごくやりやすかったよ。特に生楽器の要素とエレクトロニックな要素を組み合わせる場面だと、ふたりとも同じ考え方をしているなぁって思った。ふたりとも実際に演奏できる楽器を使うのが好きなのは、音楽歴が共通しているからだね。だから、Polysix、Crumar DS2、Arp X、Korg DV800、Moog Mother、Elektron Machinedrumとか、いろんなハードウェア・シンセを使ったよ。他にも、8弦ギターやトルコのウードといった生楽器もたくさんレコーディングした。サウンド・プロセッシングだと、何台かハードウェアの機材を使った。ちょっとしたモジュラーやEventideのH9とかね。でも、音をきれいに整えていく作業はAbleton Live内で行うことが多かった。LiveのデバイスやMax for Liveのエフェクトを使ったよ。
全体的なレベルと細かいレベルでかなり多くのアレンジが行われているように思えるんですが、リズムパートやメロディパートの演奏や打ち込み、そのあとの微調整はどのようにしていますか? 1曲の中にはパートや声、トラックといった要素がありますが、ハーモニーやリズム、音の鳴りといった点で各要素をどのように調和させていますか?
Mads & Kostas: どんなものにもピッチがある。スネアドラムやキックドラムであったとしてもね。曲の中で使われている素材がものすごく小さなものでも、そこにはピッチになる要素があるんだ。だから、ピッチを意識することが大事だね。今回の制作には、ドラムやパーカッションをチューニングして、メロディやハーモニーの音色に合わせることが欠かせなかった。楽器の演奏にかんして言えば、昔、ギターの先生が「ギターの音で空間を埋め尽くすのもいいけど、息継ぎの必要なサックスみたいにギターを演奏すれば、メロディやヴォイシングにもっと人間味が出てくる」って言っていてさ。それと同じ感覚で、俺たちも生楽器やシンセに息継ぎさせるつもりで演奏したよ。全体的なところで言えば、俺たちはストーリーのある流れを作ろうとしていたから、音のレイヤーによる躍動感や、音楽的な構造について、ある程度は理解しておかないといけなかった。理解していればストーリーを伝えられるようになるからね。あと、音の鳴っていない静寂には、実はものすごくパワーがあって、そういう対照的なことを今回のEPでは模索した。いろんな場面で、俺にはできないことをKostasが見事にやってのけるっていうことがあったよ。同じようにKostasも制作をつうじて俺と補い合っていると感じていた。だから、ストーリーや流れが今回のような形になったんだと思う。
多くの要素が制作に詰めこまれているにもかかわらず、実際の音楽からは大きな空間を感じさせますよね。リバーブの面だけではなく、各要素がすっきりと分かれて明瞭に鳴っているという意味でも、広々としたミックスになっています。この明瞭なミックスはどのようにして実現したんでしょうか?
Mads:サイドチェーンとミックスにかけるコンプレッションだね! 俺たちは複数のトラックに大量のリバーブをかけるから、このふたつが無ければ、明瞭な音を鳴らすのは不可能だよ。ミックスのコンプレッションにはFairchild 670がすごく便利だった。ダイナミックイコライザーもたくさん使ったよ。BrainworxのDynEQがとても役に立ったね。俺たちにはバンドとエレクトロニックミュージックっていうふたつのバックグラウンドがあるから、そのふたつの世界が調和して成立する方法を見つける必要があった。何よりも注意したのがパンニングで、左右に連なるステレオの音場で各音の個性が出るようにしたよ。LiveのEQ Eightも何度も使って、各トラックがちょうどいい帯域でミックス内に収まるようにした。明瞭さを損なわずに、音場に深い奥行を出したかったから、各音がミックス内に占める範囲へは細心の注意を払ったよ。
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