Mathew Jonson:リズム/メロディー/カオス
Matthew Jonsonには、理性を捨てスタジオにカオスを持ち込むことを楽しむところがあります。これは新しい音やアイデアを発見するために自身のバンド、Cobblestone Jazzでも実践してきたことでもあります。 「判断せずに起こることすべてを手放しで許容するんです」とJonsonは言います。 「そして、カオスの中から『これ、いいね』って部分を選び出します。 すべてを注ぎ込んで、そこから引き算で物事を見ていく感じかな」
エレクトロニックミュージックの代名詞とも言えるJonsonを改めてここで紹介する必要はないでしょう。 ハウスとテクノにエレクトロを融合させた独特のスタイルで、Jonsonはこのジャンルにおける重要な革新者となりました。 コラボレーションも得意とするJonsonは、Midnight OperatorやCircle of Live、Modern Deep Left Quartetなどのグループを定期的にパートナーに迎えています。また自身のレーベル、Wagon Repairや、最近設立した音楽教育プラットフォーム、Freedom Engine Academy(英語)を通じて、業界へ還元することにも力を注いでいます。
Mathew Jonsonの名曲たち。
2007年以来、第二の故郷となったベルリンで暮らすJonsonは、単なる音楽制作の枠を超えた仕事の一面を語ってくれました。 音楽や音は“ほぼタイムトラベルの道具のように”使えるため、地球上に同時に存在する異なる現実にアクセスできるとJonsonは言います。 「常にこの考えで演奏しています。 音楽で現実を変えるというコンセプトは、魅力的じゃないですか? ドラッグもアルコールもいらないし、他に必要なものなんてない。 特定の周波数が相互に作用する方法だけで、人の時間の感覚を変えられるんですよ」
楽器が至るところに置かれているような家庭に育ったJonsonは、幼い頃から音楽教育を受けてきました。 「父はチェンバロやいろいろな民族楽器を持っていました」と回想するJonson。 「9歳のときにピアノを買ってもらい、本格的に習い始めました。 でも、クラシックピアノは5年間しか習わなかったのでなかなか上達しませんでした。 今は独学でもっと高いレベルに達しているけどね。 だから、クラシック音楽のトレーニングのほとんどは、実はパーカッショニストとして受けたものなんです」
北米で育ったJonsonの初期の音楽は、Michael JacksonやA Tribe Called Quest、Souls of Mischief、さらにThe Pharcydeなどの影響を受けてかたちづくられたものでした。 その後、数年の間にカナダの急成長するレイヴシーンがパイプ役となり、エレクトロニックミュージックとアナログ機器への情熱を共有する仲間とつながることができたのです。
「10代後半からドラムンベースにのめり込み始めたんですよ。 Metalheadzに収録されているHidden Agendaをはじめ、Photek、Goldie、J Magic、そしてDigitalといったアーティストは、その頃の僕に大きな影響を与えました。 それにジャズもたくさん聞いてきました。Keith Jarrettとかね。 彼のソロピアノのアルバムはどれも大好きです。 そのあと、Vangelisや冨田勲、YMOなどのシンセサイザーの世界にも足を踏み入れることになりました。 あとGary Newmanにも長い間、夢中になっていました」
アナログ・ドラムマシンのパルスが織り成す、催眠的かつ魅惑的なメロディーは、Jonsonの楽曲の特徴です。 今回は、その構造をより深く理解するため、また音楽制作に使える素材として、メロディーループ集を提供してもらいました。
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Jonsonは、ドラマー、パーカッショニストとしての経歴を生かし、メロディーにリズムとアクセントを持たせています。 右手でキーボードの高い音域へ移動することで、リズミカルなアクセントを取り入れるアプローチについて 「シンセをプログラミングする際に、メロディーとドラムのリズムを同時に作っています」とJonsonは解説します。 「気に入ったものが作れるまで、何度もやり直しますね。 その度、何回も削除ボタンを押して、演奏する、を繰り返すんです」
Jonsonは、メロディーをあれこれ試し始めた頃、つまり音楽理論を理解し、何を弾いているか正確に認識する以前に、キーボードの黒鍵を演奏することに、よく引き寄せられたと回想しています。黒鍵は、Gbメジャーのペンタトニックスケール(英語)と相性がいいのです。
「その手法は、初期に作ったテクノのレコードにも受け継がれていると思います。 それから、その黒鍵の音にどんな白鍵の音を足せばいいか理解するようになりました。 ただじっと頭の中で鳴っている音を探すのではなく、鍵盤を学び、実際にやってみるというやり方でした」
その後、音楽理論を独学で習得したJonsonは、サスペンデッド・コード(英語)が気に入りました。サスペンデッド・コード(またはsusコード)とは、第3音を抜き、完全4度(英語)や長2音(英語)を入れた和音です。 また、このコードをすべての調で弾いたり、左手(ベース)でさまざまなパターンを演奏したりする方法を独学で身につけました。 「右手で弾く音の位置に応じて低音を転調させるなど、そういう技能をすべて学びました」 とJonsonは説明します。 「このような変わった理論を用いた挑戦を自分に課すことで、新しい演奏方法は見つかるのです」
音楽理論をしっかり学べば、信頼性の高い基準や指針を持つことができます。しかし、音程が正確なスケールだけを使って制作することの限界もJonsonは指摘しています。 「音程の正確なスケール音を、パッドを使ってプログラミングする人を初めて見たとき、本当に納得がいきませんでした」とJonsonは話します。 「臨時記号がなければ、緊張感が生まれないじゃないか。 スケールや調に存在しない音が必要なこともあるんだ!ってね」
単音メロディーの作成時、Jonsonが所有するシンセ、Roland SH-101(英語)は、スタジオでもステージでも常に貴重なインスピレーションの源となってきました。 SH-101から生み出される音は、最終的なミックスでは残らないこともありますが、作曲全体のきっかけになることが多いとJonsonは語ります。 シンセサイザーの技術は日進月歩ですが、SH-101のシンプルさのおかげで、基本に忠実であり続けられるのです。
「SH-101の音は限定されているから多くのことはできません。 でも、その分基本に忠実でいられるんです。 それにビブラートやトレモロ、音量など、音に関わる最も重要なことを忘れている人も多いと思います。 自分が机の上でミキシング作業をする理由は、そこにあります。 ミックスを録音しながら、直感的に音量のオートメーションにいつでも変化をつけられますからね」
コンピュータだけで作業する制作者に対して、Jonsonはどんなアドバイスをするか尋ねてみました。実際にMIDIコントローラを使えば、完全にデジタルのセットアップであっても指先の操作だけで音楽制作をすることは可能です。 「それについて、最近よく考えるんですよ というのも、子どもができたことで、スタジオに入る時間は以前よりも限られてくると思うので。 だから、自宅や移動中にコンピュータで仕事できるのはありがたいですね。 でも、 今までとは違う仕事のやり方なので、まだまだ苦労しています。 コンピュータでの作業は、ほかの音楽スタイルの方が適していますしね。 実際にコンピュータだけでテクノを作るのはちょっと難しいかもしれません。やっぱり直感的に指先の操作だけで何でもできる要素が求められている気がします。 自分にとってテクノの演奏で重要なことは、シンセサイザーやEQ、ボリューム、ミュートなどに直感的な操作で微妙な変化をつけていくことです。 それをすべてコンピュータに取り込むとなると、あらかじめプログラミングされたテンプレートが必要になる気がするし、大量のノブがついたコントローラを使うことになります。 そのためには、体が覚えるまで慣れておく必要があると思います。 また、使用するDAWがよく練習した楽器のようにセットアップされている必要があります。 スタジオにあるAbleton Liveのコピーにはテンプレートが入っているし、 すべてのMIDIやキーボードには、あらかじめ割り当てられたパッチも入っています。 でもそれは、今のところ外部機器を使うためのものですね」
「……脳は、反復するパターンを見つけていないから、音に興味を持ち続けられるんです」
ミニマルなサウンドで知られるJonsonの音楽スタイルに対し、音がまばらすぎると批判されたことはないか尋ねてみました。 「ええ、ミニマルすぎると言われたことはありますよ」とJonsonは笑います。 「でも、それは僕がそのことを成し遂げてしまっていることに、イライラしているのかもしれませんね(笑) 単に僕は個々のシンセサイザーのシンプルさやさまざまなフィルターの音が好きなだけなんです。 それぞれのオシレーターの音も大好きだし。 音楽を作るときは、波形の変化を深く追求することが多いですね。 かといって、あまりにも多くつめこむと、微妙なニュアンスから、なにか大事なものが失われることもある。 また、純粋に技術的な理由もあるんです。 Freedom Engine Academyを始めるまでは、ミキシングに関して自分が何をやっているのかよく分かっていなかったから」
Jonsonが以前、楽曲の要素を最小限に抑えていた理由のひとつは、エンジニアリングの知識不足があったかもしれないことを認めています。しかし、Freedom Engine AcademyでBeatriz Artola(英語)の指導を受けたことで、ミキシングに関する認識が一変したそうです。
「優れたエンジニアであればあるほど、より多くの楽器をミックスできると思います。 パンや配置を理解し、歪みであれ何であれ、音に分離感をもたらす処理ができるからです。 Beatrizのミキシングを見たことでさらに理解が深まりました。 でも、他のプロデューサーの音楽は音が過剰な状態になっていることが多いと思います。 サンプルを何層にも重ねすぎていたり、躍動感を与えようと不要な音をたくさん加えていたりする人もいますよね」
「メロディーのリズムを、演奏者が決めるのではなく、ドラムマシンからのトリガーによって決める」
2015年、Mathew JonsonとDanuel Tate(英語)、Tyger Dhula(英語)は、Itiswhatitis RecordingsからCobblestone Jazzとして「Northern Lights」をリリースしました。 その中の11分の楽曲は、複雑でパーカッシブなメロディーと、シンコペーションのコードパターンが微細に進化する構成になっています。Jonsonと共同制作者たちが、この特殊なサウンドを実現するために時間をかけたこと。それはドラムマシンの異なるトリガーで制御される、6つのVCA(ドイツ語)と6つのエンベロープを使用したモジュラーパッチの設定です。
「僕たちはエンベロープのタイミングを合わせました。 アタックタイムやディケイタイム、リリースタイムを設定して、音楽的に機能するようにしたんです。 4分音符や2分音符、どんな音だろうとも。 そして、音と音との空間も意識しました。 エンベロープの音が聞こえない無音の瞬間とかね。 パッチをセットアップすると、5曲くらいはすぐにできました。楽器を演奏して、それを個々のVCAに割り当てるだけで作れたんです。 なぜかというと、それはメロディーのリズムを演奏者が決めるのではなく、ドラムマシンからのトリガーによって決められるからです。 DanuelはFender Rhodesでコードを押さえ、僕はYamaha CS-60で違ったコードを演奏しながら、キーボードの音階を上下に動かし、ドローン音を弾いているだけです。 でも、こんなにもパーカッシブな感じがするのは、VCAが音量を大きくしていることが理由です。
ビンテージシンセにあまり慣れていない人にとっては、ドラムマシンを使ってシンセをトリガーするというコンセプトは分かりにくいかもしれません。当時の内蔵シーケンサーは、実際のリズムを制御できないものも多いので。 Roland JX-3P(英語)やSH-101のようなビンテージシンセの内蔵シーケンサーには、リズムの制御を引き起こす何かが必要になると、Jonsonは解説します。
「SH-101の場合、音符のシーケンスを入れると永遠にループし続けますが、 音が鳴るタイミングを決めるのはトリガーだけです。 まさに歪んだ矩形波のような小さなパルスのことを指します。 Roland 909(英語)では、リムショット音が独立したトリガー出力を持っています。 なので、リムショットの音量を下げて使えば、外部シンセサイザーにトリガー出力を送ることができます。 Roland 606(英語)の場合、ロー・タムとハイ・タムにトリガー出力があり、SH-101やJX-3P、さらにPro Oneの各シーケンサーなどをトリガーできます。 それにモジュラーシンセのトリガーにもなりますね。 こんな風に使っているんですが、 基本的にエンベロープは、この非常に小さなパルスを使い、パルスが当たった後に何が起こるかを示すために使っています。
Jonsonが、シンセサイザーで特定の音や周波数を引き出すために使用しているのが、LFO。 そして、LFOを同期させないことで時間と共にモジュレーションが微妙に変化するのが気に入っているとJonsonは言います。
「シンセのフィルターカットオフに正弦波のLFOを設定し、4分音符に同期して正位相で始めるとします。 カットオフ周波数を調整して音を完全に遮断し、低音はある程度出ているけど高音はあまり出ていないスイートスポットをいじったとしても、LFO波形のその部分では高音しか出ていないことになっています。 ですが、LFOを同期させない場合、LFOの変化によって、ゆっくりと進化するメロディーを作ることができます。 つまり、たとえば、最初の30秒間、4/4拍子の1拍目では高音が聞こえるものの、2拍目では聞こえなかったとしても、 時間が経てば、その高音は全部聞こえるようになります。 ピアノの音域の高低がかなり広いメロディーの場合、これらのLFOを使ってとても興味深いことができます。 またアンプリチュード・モジュレーションやリング・モジュレーションを使って、時間軸から外れたLFOで小さなニュアンスを作り出すといった繊細な手法も可能です」
「脳がカオスを好むのは、脳の中で何かが起こっているから」
LFOの話題を広げましょう。Jonsonは、音の強さを実際に聞いたり感じたりできるほど、音のモジュレーションを非常に高いレベルまで増加させます。 そして次に、その振幅をほとんど聞こえないレベルまで小さくします。 「何が起きているか、まったく聞こえない所まで下げることもあります。 でも、そこで何かが起きているんです。 他の音に埋もれて、波形に起きていることが認識できなくても、モジュレーションは有機的で進化した要素を作り出している。 それをどう表現したらいいのかわからないけど、脳は反復するパターンを見つけていないので、音に興味を持ち続けられるんです」
脳にはパターンを探す傾向があり、パターンを見つけると、それ以上の情報を積極的に探すのをやめるということを、Jonsonは語ってくれました。 このことは音楽を聞くとき、特に同じ曲が繰り返し演奏されるときの“チューニングアウト現象”につながるのではと語ります。
「脳は説明できるパターンを見つけると、それについて考え続ける必要はありません。 もっと混沌としたことが起こっているのではないかと探し始めるからです。 だから、同じサンプルを繰り返し再生していると、脳は『もう聞かなくていいだろう』と思うようになります。要は次第に飽きて面白いと思わなくなるということですね。 脳がカオスを好むのは、脳の中で何かが起こっているからで、 それが脳をとても活性化させる。 たとえば、ホワイトノイズは、パターンを探している脳に緊張感を与える最高の方法です。 だから、テクノミュージックの世界でビルドアップやブレイクダウンにホワイトノイズのような空気音がよく使われているのは少し興味深いですね」
Jonsonの話には科学的な根拠があります。 リズムのないホワイトノイズを入れることで脳が積極的にパターンを探すようになるため、最終的にリズムが入った時により嬉しさが高まっていきます。 Jonsonはこの“カオス理論”を他の音にも応用し、それが、微細な動きの感覚をもたらすこともあります。
「フランジャーやフェイザーでも同じことをやっています。 フェイザーでは、レゾナンスを高く上げて、どこが惰性で動いているか聞こえるようにします。 そして、フェイザーの音がまったく聞こえなくなるくらいまで下げます。 すると、同じパターンの繰り返しなのになぜかその曲を15分も聞き続けられます。 でも実際は同じものは何もなく、すべてがゆっくりとモーフィングしているんです」
Her Blurry Pictures (Original Mix), by Mathew Jonson
2010年にリリースされた、Jonsonによるメロディックテクノのヒット曲『Marionette』が傑出した作品となったのは、こうしたわずかな複雑さによるものかもしれません。 一見シンプルに聞こえるにもかかわらず、多くのリスナーの共感を得たのは、特別な何かがあるからでしょう。 その理由を見抜くJonsonの能力は、探求に値する問題です。
「あのレコードを作ったとき、僕は間違いなく何かとチャネリングしていました。 自分にとって不思議な1枚ですね。 というのも、あのレコードの曲を書いていたとき、自分自身がそういう状態だったんです。 実は、自分が書いたという実感がないんです。 だから変に聞こえるかもしれないけど、レコードが成功したのにあまり嬉しいという感覚がないんですよ。 だって、自分が書いたとは思えないから。 そんなトランス状態だったような気がします。 もちろん感情と紐づいたレコードはたくさんあって、それを好む人もいるし、 共感してくれる人がいること自体はとても嬉しいことだと思います。 一方で『Marionette』は、そこからは完全にはずれた存在という感じです。 だから、マリオネットというタイトルにしたんだと思います。 まるで自分自身がマリオネットで、霊的な存在か何かに操られているような感じだったから」
音楽はJonsonにとって多面的な取り組みであり、その創作の過程で織りなされる、さまざまな動機に突き動かされています。 自身の精神的な傾向が、他の方法では得られない深みと信憑性を音楽に与えていると、Jonsonは語ります。
「音楽をする理由はたくさんあります。 瞑想のため、 楽しみのため、 お金のため、 セラピーの役割として、 そして、コミュニケーションの方法として。 音楽にはさまざまな側面がありますよね。 そして、すべてが互いに影響し合っています。 深く瞑想的でスピリチュアルなことが制作時に起こらなければ、音楽はもっと薄っぺらいものになっていたのかもしれません」
では、制作過程において、音楽が“薄っぺらく”、あるいは不自然に聞こえてしまう落とし穴はどこにあるのでしょうか? Jonsonは「分析しすぎること、および考えすぎてしまうことにある」と指摘します。 「意識的に何かをしようとしたり、分析的にまとめたり、音楽理論を使ったり、あるいはそうしようと思っただけで『なぜそんなことするんだ?』と自分に聞きたくなるんです。 コード進行を見つけるなど、音楽理論を作曲の手段として使えば、曲の精度が高まることもあります。 でも個人的には、できる限りの知識を得ると同時に、その知識にあまり縛られないようにしたいと思っています。 なぜなら、メロディーやパートに耳を澄ますのが好きだからです。 キーボードを弾いて曲を理解しようとするよりも、スタジオやステージで自然にメロディーが浮かぶのを待つのです。 自分の中にあるものが自然に出てきたり、潜在意識や自分を導く霊的な存在、あるいは部屋や土地のエネルギーから何かが現れるのを待つ方が好きなんです」
これまで世界中で演奏してきたJonsonは、地球のさまざまな共鳴と極性がどのように演奏に影響を与えるかについての持論があります。「よくサウンドチェック時に感じるんですが、ひとたび観客の中で演奏し始めると、自分のエゴがからんできて、レイヴやダンスフロアでのうまく演奏することが目的になってしまいがちです。 いきなり突飛な話に聞こえるかもしれませんが、人々の文化について考えることがあります。 たとえば、人類が長い間、ある土地に住んでいた場合、そこには地球から発せられる特定の周波数や共振があります。 そして、僕たち人間がいかに敏感であり、それゆえに人間とは異なる次元と調和できたり、結果的にさまざまな霊的な存在ともアクセスできるのかもしれない。そんなことを考えています。 すべては皆、互いに共鳴し合っている。 これはとても興味深いことだと思いますね。 とはいえ、自分が気づいたのは、ほんの些細なことに過ぎないのですが。 自分がこのことの専門家であるとか、言っていることが100%正しいと信じているのではなく、ただ興味をそそられるんです」
Jonsonの陶酔や超越を感じる音楽をもってすれば、霊的な存在とのつながりについて語るのも無理はありません。 Jonsonは、カナダの海岸で体験した霊媒としての印象深く、まれな出来事を語ってくれました。
「先住民族の土地でレイヴをしていた時のことです。 周りにはたくさんのトーテムがあり、とても美しい空間でした。 それでそんな場所でレイヴが行われていることに不思議な感覚を覚えました。 だから、ステージに上がる前にしばらく座って、この土地にいる精霊に敬意を表し、もし望むなら僕の手を使って音楽を表現してほしいと呼びかけてみました。 そして、瞑想のあとにステージにあがり、機材のスタートボタンを押そうとしたところ、発電機から電力サージが発生しました。 そのせいで自作のパターンやシーケンスがすべて消えてしまい、 白紙の状態からその場で作り直さなければいけなくなるということがありました。 その時に思ったんです。『なるほど、これは興味深い......』ってね」
Jonsonの作品は、新しい世代のミュージシャンやファンに刺激を与え続けています。彼の影響が今後何年にもわたってエレクトロニックミュージックの未来を作り続けることは間違いありません。 パンデミックの真っ只中、JonsonはFreedom Engine Academyを通じて、自分の知識を伝えはじめました。ツアーをしていたらそんな時間はなかったでしょう。 当初、自ら指導を行うことを考えましたが、すぐにピアノ理論やエンジニアリングといった分野での自分自身の限界に気づきました。
「ピアノとパーカッションの訓練を受けていたのは、とてもラッキーだったと思っています。 エンジニアの知識はなるべく学んできたつもりでしたが、 指導する側の人間ではないことがわかりました。 自分が教えられるのはライブのやり方や他のミュージシャンとの関わり方、そして、リミックスや楽曲制作の方法などにすぎません。 個人的なことだから教えられるんですよ。 それに僕の音楽のファンであれば、僕が何をやってきたのかに興味を持つでしょう。 でも、それで彼らがどんな情報を得ることになるのか、とても気になります。 だから、自分自身が学びたいと思えるメンターも迎えることにしました。 Beatriz Artola、Erik Breuerという録音やミックスのエンジニアがいますが、両者とも多くの人と仕事をしてきたため、とても経験豊富です。 それに音楽理論やダンスミュージックの歴史を教えるピアノの講師も2人います。 ある意味、彼らは自分で打ち込んだ以上のものは得られないかもしれません。 でも、トップレベルの人たちと接することはできる。 そして、このアカデミーが生徒の人生を変えていくのです。 僕たち講師陣が音楽業界に恩返しできている感じがして、うれしく思いますね」