新しいLiveセットを開き、空っぽのセッション・ビュー・ウィンドウを前に考えを巡らせ、どう進めるべきかと頭を悩ませる…。誰しも経験があることでしょう。また、インスピレーションのひらめきから楽曲完成までこぎ着ける手段が分からない、というのもよくある話。つまるところ、現代のどのような音楽ツールやテクノロジーを持ってしても、音楽を生み出す作業は昔と変わらず難しいことなのです。この問題についてと、それにどう対処するかを扱ったのが、『Making Music - 74 Creative Strategies for Electronic Music Producers』と題された新刊。
著者であるデニス・デサンティス(Dennis DeSantis)はAbletonのドキュメンテーション部門の責任者を務めていますが、この本はLiveユーザーマニュアルの拡張版ではありません。タイトルが示すとおり、手持ちのツールを使用した音楽作成の手助けとなるよう意図されています。使用するソフトウェアやハードウェアに関係なく、音楽上の問題の解決、作業の進め方、そして(最も重要な)取りかかった仕事を終わらせるための具体的なアドバイスを提供しています。
『Making Music…』は3つのセクションに分けられており、最初のセクションでは音楽制作プロセスの初期段階での問題(と解決策)についてを扱っています。また、熟練のミュージシャンであっても、空のプロジェクトをむなしく眺めるばかりという状況は制作にはつきもの。そこでAbletonは、新しい作品の制作にとりかかる際の戦略についてお気に入りのアーティスト数名に尋ねました。各アーティストの回答は下でお読みいただけます。読み終わったら、Making Music専用サイトに移動し、各セクションの完全版をお読みください。
King Britt
制約やパラメーターをクリエイティブな流れの推進力として利用する(ジョン・)ケージや(ブライアン・)イーノの手法に魅力を感じてきました。たくさんの選択肢を目前にするようになった今、このプロセスはこれまで以上に重要性を増しています。
ですので、プロジェクトをスタートさせるときは、まず、捉えたいサウンドを表現するのに使用したいパレットについて考えます。ときには、すべてのサウンドに対してアナログ・キーボード2台だけを使用することにして、超クリエイティブにならざるを得ない状況に自分を追い込み、キーボード自体のサウンドと特性の範囲内に限定することで、プロジェクトの雰囲気と焦点を決めます。
その後は思いつきに任せて独自のサンプルやループを作成していきます。
使用するサウンドやプラグインが決まったら、その後は思いつきに任せて独自のサンプルやループを作成していきます。サウンドがランダムにトリガーされるようにシステムをセットアップして、これらをループやサンプルにして新しいリズムに成形していきます。この方法だと、同じことを繰り返すことがないので独自性が高まるし、誰かに作成方法を解読される心配もないので、他との違いを際立たせることができます。
ヒップホップのサンプリングでは、『Adventures in Low Fi』(BBE)の制作が思い出されます。毎日20枚のレコードをランダムに(レコードを見ないで)棚から選び出し、これらを題材にビートを作成するのが日課でした。とても楽しかったので、今だに同じことをしていますよ。予想しないようなコンビネーションが得られるんです。
このテーマについて詳しくは、『Arbitrary Constraints』の章をご覧ください。
Kindness
ゼロから始めるのは大変です。ドラム・プログラミングについて何も知らないというのでなければ、スターティング・ブロックとしてドラム・サンプルをセッションに加えてみるといいでしょう。サンプルを入れ替えたりしてみて、その作品の一部になったら取り除いてしまいましょう。レコードからサンプリングしたサンプルのエネルギーや「完成された」サウンドは、追加する他の要素に即座に重みと奥行きを与えてくれます。
Doseone
何かを「始める」準備として、頭に浮かんだアイデアを迅速にキャプチャすることができるようAbletonとスタジオのワークスペースを整えて、現実世界からの邪魔や障害が最小限になるようにしています。「整えて」おくということの大部分は、環境設定を入念かつ万端にしておくこと、お気に入りのインストゥルメント/機材すべてを常に接続しておいて電源ボタンを入れればすぐに録音可能な状態にしておくことです。
当初のインスピレーションを編集/再アレンジ/補足する時間はたっぷりあるのですから、まずは自分のアイデアをしっかりと出しましょう。
インスピレーションは一晩経つと消えてしまうので、頭に浮かびかけたアイデアをできるだけすばやく分かりやすく書き出し/スケッチ/録音しておくと、適切で自然な作品への道の模索/リサンプリング/抹消がよりスムーズになります。着想を得たミュージシャンにとってスピードは必ずしも重要ではありませんが、思いついたアイデアをすばやく保管することは、理解の明確度を増幅させ、慌てて制作プロセスにとりかかってしまうことを防ぎます。
当初のインスピレーションを編集/再アレンジ/補足する時間はたっぷりあるのですから、まずは自分のアイデアをしっかりと出しましょう。技術的に「自己流から抜け出す」ことは、「自分の音楽」がどのようなサウンドなのかをじっくり聴くのに効果的な方法のひとつです。
Kyoka
どうスタートさせるべきか分からないとき、私はトール通りの音を録音します。(どの通りでもいいのですが、トール通りは車やトラムがたくさん行き交っていて、いつもある程度の音量が保たれているので、私にはぴったりなのです。)それをAbletonに読み込み、その音に合わせて即興で歌ってみます。だいたい、これで何らかのヒントが得られます。ユニークなビート、面白いハーモニー、それまで気付かなかったタイミングなど、これらは新しい作品の土台となる素材になります。
Jan Jelinek
音楽とサウンドに対する私のアプローチは視覚的ものとなる傾向があるので、「音楽の外見」から考え始めると上手くいくことが多いです。ですので、まずデザインとカバー・アートのアイデアについて考えてから、それに合う音楽作りを始めます。ほかにも、先にアルバムのライナー・ノーツを書いてしまうのも有益です。もっといいのは、ライナー・ノーツを誰かに書いてもらうことですね!
『Making Music』抜粋章を読む
注:『Making Music - 74 Creative Strategies for Electronic Music Producers』は英語版のみとなります。
King Britt、Kindness、Doseone、Kyoka、Jan Jelinekについてさらに詳しく