L-R: Rory St. John, Mads Lindgren, Simon Hayes
音楽の歴史においては個々の作曲家やパフォーマーに称賛が集まりがちですが、実際の音楽の発展と進化はコミュニティとコラボレーションから生まれています。Mads Lindgren aka Monolog、Rory St. John、Simon Hayes aka Swarm Intelligenceの場合、コミュニティとは、コラボレーションであり、拡大しつつあるなじみの会場でのクラブ・ナイトであり、毎年開催されるフェスティバルBurn the Machine。これらが、ベルリンをベースに活躍するミュージシャン・グループから生まれる、ベースが打ち乱れるサウンドのショーケースなのです。
さまざまに異なるバックグラウンドと国籍を持つMads、Rory、Simonは、ベルリンで出会い、Sublandなどの会場やAd Noiseamといったレーベルで、新しいシーンの形成において大きな役割を担っています。3名とも、10月終わりから11月頭にかけてのBurn the Machineフェスティバルで演奏を披露しました。3名ともフェスティバルのスタート当初から毎年出演しています。DJイングと制作におけるキャリアを重ねる3名は、Abletonのスタッフでもあります。Abletonは、スタジオ作品をステージで披露する際の移行手段、3人集まってのライブ演奏、サウンドデザインについてMads、Rory、Simonに話を聞きました。
それぞれの音楽制作歴について教えてください。現在の名義での活動はどれくらいになりますか?
Rory St. John:数年にわたってさまざまな名義で作品を発表してきましたが、多くはRory St. John名義です。UniNerves名義でもいくつかリリースしました。こちらはよりディープなエレクトロ/エレクトロニックなタイプのヴァイブです。こちらの要素は、最近はテクノ作品ににじみつつあります。現在は別のプロジェクトに取りかかっていて、バックトゥベーシックなテクノになる予定です。どちらかというと、4つ打ちのダンスフロア作品です。本名名義での活動では、ジャンルに囚われず興味のあるものをやっています。
Simon Hayes:かなりの間Swarm Intelligence名義で制作を行ってきました。Liveは10年くらい使用しています。MadsとはDiasiva名義で一緒に活動しています。また、Roryともいろんな活動をしています。個人レーベルStasis Recordsからいくつかリリースしていますが、初のEPはアイルランドのレーベルInvisible Agentからでした。最新作はスコットランドのレーベルAcre recordingsからリリースしています。Ad Noiseamからも出せるといいですね。
Mads Lindgren:きっかけは96年のメタルのプロジェクトです。メシュガーのようなニューメタルで、強烈でヘビーな抽象的な音楽を演奏していました。その後メンバー全員がコペンハーゲンに行ってしまったので、99年に仕方なくFastTrackerを使用し始めました。2000年にデビューアルバムをTInder Productionsからリリースし、それ以来19作品をさまざまなレーベルから発表しています。デジタル、LP、CDなどさまざまですが、ほとんどはレコードです。最近はAd Noiseamからのリリースが多く、ベルリンのジャズシーンで演奏しています。
Roryの最新EP「Astroakoustic」はエディットがかなり含まれていますね。かなり正確なサウンド・デザインを聞き取ることができます。ループ作成のプロセスからこういった特別なアレンジに至ったいきさつについて聞かせてください。ループ作成のプロセス中にこのアレンジが生まれたのですか?
Rory:ある意味そうですが、それは一定の可能性の範囲内でありえることです。なので、こういった変化が可能なエフェクトラックやシナリオをたくさん作成するようにしています。エフェクトラックから、また何かを別の長さでループさせることからループのアイデアが生まれることもあります。ループの長さがテンポにロックされていない場合や、拍子が異なっているためにまるでループが時間の経過と共に変化しているように聞こえる場合なども、アイデアの源になることがあります。とはいえ、ループは一定であることが多いので、スタッターエディットをかけたり、ヘビーなディストーションを大量にかけたりします。私独自の個人的なデバイスといえるかもしれません。エディットでは、ミュートさせておいたいろんなインスタンスのトラックをアレンジ全体にわたって一列に並べて、時間軸に沿ってセクションを取り込んでいきます。Liveのアレンジメントビューでは、これが本当に簡単に操作できます。その後APC40かPushとエフェクトラックを使ってジャミングしますが、こうすることで人間らしいアプローチを簡単に加えることができます。
L-R: Rory St. John, Mads Lindgren, Simon Hayes
MadsとSimonのDiasivaでのワークフローについてお聞かせください。
Mads:素材にはあらゆるものを使用します。そのままセッションで使用することができないものもありますが、そんなときは素材のバリエーションを作成したり、追加のセッション録音を行ったりします。基本的なチェーンの作成はルーティングから始まります。ここでは、あのトラックをこのトラックに送って、このトラックに戻して、サイドチェーンでこっちへ、そのあとこっちへ…と根気よくやっていきます。エレクトロニック・ミュージック作品の場合、ソングとテクスチャの作成がベースとなるので、ソングのカギとなる光るサウンドが生まれたら、それらが互いにうまく適合するようにサウンドを変形させる必要があります。ベースドラムがキックドラムに合っていなかったり、パッドがハイハットを打ち消してしまっていたりすることがあるからです。だいたいこのあたりからAbletonのルーティングを始めます。ときには小節単位で調整することもありますが、サイドチェーン、ゲート、トラックの合間での動的な効果に関して言えば、Ableton Liveほどモジュラーなホストはないと思います。これらのチェーンのところどころに毛色の異なるMax for Liveデバイスを入れてみるのもいいアイデアです。Liveでソングの大まかな構成を作成しようとする段階がきたら、これらのサウンドをブラウザーから利用します。ソロ作品の場合は、シンセを演奏したり、フィールド録音素材を聞いたり、PCBのプロトタイプを作った友達に話を聞いたりします。こうするとだいたいアイデアが浮かんできます。Diasivaの作品もこうして始まることが多いです。
Simon:いくつかのセッションに分けて行っています。変わったアイデアを得るためにサウンド・デザインのセッションを行うこともあります。最近では、外部機器をMadsが作成したマジックボックスに接続してみました。基本的には密閉チューブにアンプが組み込まれた作りです。密閉された箱にマイクが入っています。これでいくつかサウンドを録音し、さらに処理を加えます。その後、別のセッションでフルアレンジ編集や微調整を行います。こうやってすべての要素をライブセット内に揃えてから、スタジオ用のサウンドと分けていきます。
SimonのBurn the Machineでのワークショップは今年も開催されますか?
Simon:Pushのワークショップを行う予定です。Madsが去年フィールドレコーディングのワークショップをしたのですが、とてもいい出来でした。
Pushを使ったことのない人、Pushを持っていて詳しく知っている人、Pushにあまり興味がないけれどLiveでの操作を見てみたい人など、いろんな人に興味をもってもらえるようなワークショップにしたいと思っています。
セッションでは、まずサウンドデザインか、特定のアイデアからスタートさせ、ハードウェアかLiveやプラグインを使用して、ソング構成を徐々に構築していきます。セッションビューでたくさんのアイデアをスケッチしますが、Pushが活躍するのはまさにここです。
SimonとRoryは、先日SublandでDJセットを披露されていましたが、あの連続セットはオリジナルですか?
Simon: はい、Liveを使って…
Rory:LiveとPush、いくつかの外部エフェクト、数チャンネルのミキサーです。2人で互いにキャッチボールをするような感じでやっています。セットの大まかなアイデアだけ決めておいて、4時間ほど演奏しました。
Simon: 5時間だよ!
Rory: ああいった状況では、連続させるというアイデアはいいと思います。時間をかけてオーディエンスの雰囲気や状況を感じ取ることができるし、2人のうちどちらかが別の方向に変化させることができるからです。別物だけど、食い違っているわけではない楽曲やサウンドについての2つのアイデアがあって、その間に面白い何かが生まれるという感じです。
Simon: 私たちは一緒にStalker Radioというラジオ番組にも出演しました。
DiasivaがSublandでプレイしている面白いビデオがあるんですが(上)、カメラが振動しています。
Mads: 4,500Wのサブウーファーだね(笑)。Diasivaのライブは、程度の差はあれ、私がライブで行っていることと、Simonがライブで行っていることの延長線上にあります。私は即興ジャズの要素を取り入れています。基底となる要素があって、それを継続させながら、別の要素を見つけ、さらにそちらを発展させていくわけです。基本的に、ライブセットにも、セットリストにも、再生するトラックにもはっきりとしたプランはありません。レゴで遊ぶように、その時々の状況に合わせて作品を組み上げていきます。これがスリリングさを与えていると思います。組み合わせが簡単かつスムーズなので、ベースライン、ドラム、パッドなど、思いのままに変更することができます。Simonと同じでかなりモジュラーなライブセットになっているので、簡単な役割分担をしています。私は金曜から土曜のこの時間帯にプレイしているので、同じライブセットを2回プレイすることがないよう、Diasivaではドラマーとしてのみ参加することにしているんです。Simonはベースをプレイしています。
Simon: 濃いノイズをね!
Mads: Monologとは異なるライブセットをプレイするのですが、先週末のオーバーハウゼンでのMachinenフェスティバルから帰ってきたばかりです。こんな状況なので、さまざまな方向に展開できるライブセットを用意しておくことがとても重要になります。174でプレイしたり、140でプレイしたり、ダブステップをプレイしたり、オーディエンスの反応に合わせてあらゆる方向に転換することができます。
3年間にわたってBurn the Machineに参加して来られましたが、このフェスティバルについてどのようなお考えをお持ちですか?
Mads:こういった露出の仕方、特にAbletonとの関連でこのような露出があった初のフェスティバルだということは特筆できると思います。フェスティバルで、アーティスト、シーン、クラブ、そしてそこで使用されているソフトウェアを多くの来場者に紹介することができ、ワークショップでアーティストがどのようにソフトウェアを使用しているのかを示すことができればいいと思います。いろんな意味ですばらしい融合の場になると思います。
Simon:Ad Noiseamレーベルを見れば、キュレーターの腕が分かるはずです。Deanも同じく長い間Sublandをプッシュし、一流の音楽が提供されるよう尽力してきました。毎年参加していますが、いつも雰囲気がよく、参加者にも恵まれていると思います。
Burn the Machineは10月31日から11月2日までベルリンのSublandで開催されました
各アーティストについてはこちらをご覧ください。
Monolog(Mads Lindgren)
Swarm Intelligence(Simon Hayes)
Rory St. John
Diasiva(Mads & Simon)