KMRUのドキュメンタリー:環境が音楽に与える影響
わたしたちの作る音楽は、生まれ育った場所に必ず影響されると思いますか? あるいは、そこからどこに行くかによって大部分が決まると思いますか? それとも、現在いる場所だけが重要なのでしょうか? こうした疑問やそれに関連する疑問が中核となっているのが、Abletonの新しいアーティスト・ドキュメンタリー、KMRU『Spaces』です。
もともと、オンラインイベントLoop Createの一環として配信したこのドキュメンタリーは、KMRUがナイロビで過ごした幼少期から、家族で移り住んだ郊外を経て、現在の拠点であるベルリンに至るまでの道のりを追ったもの。制作の着想元となってきた場所や空間にKMRUが登場し、音楽の聞き方や録音方法、そして何より自身の作曲方法が環境の変化によってどのように影響を受けたのかを語っています。
このドキュメンタリーでKMRUが触れているテーマについてもう少し理解を深めるため、今回はやや技術的な側面からKMRUに追加インタビューを行ってみました。
数年前、Liveでグリッドやメトロノームを使うのを止めたと言っていましたね。 なぜそうしたんでしょうか? それによって制作にどんな影響がありましたか?
そうなったのは、僕が制作でもっと質感を軸にした音やフィールドレコーディングを使うようになったころだったと思います。 録音物の“時間”がわからなくなるから、より直感的に作曲へ臨むしかなくなります。 メトロノームを使っていないときは、より直感的な感覚がありますね。新しいパートの重ね時がいつかわかるし、タイミングが合っているかどうかに縛られることなく、曲のどこでも録音ボタンを押せます。
Echoみたいに時間を設定するタイプのエフェクトをグリッドなしでどうやって使っているんですか? Liveの画面左上にある[Tap]をクリックするとか? それとも、ただ耳で聞いてディレイタイムを設定しているんですか?
耳で聞くほうが多くて、ざっくりと自然にやっています。ディレイをグリッドに固定したいわけじゃないので。 ほとんどの場合、そういうエフェクトは曲を作りながら録音しています。
最新アルバム『Logue』では、“Jinja Encounters”とか、リズミカルな曲がいくつかありますね。 こういう曲ではグリッドをまた使うようにしたんでしょうか? もしそうじゃなければ、リズムの構造はどうやって生まれたんでしょうか?
“Jinja Encounters”のほかにも、『Logue』に収録されているリズミカルな曲は2017年頃に書いたものです。リズミカルな曲の制作では、まだメトロノームを使っていました。この手の曲の制作には今でもメトロノームを使うでしょうけど、リズムや時間のアプローチが変わると思います。
普段はフィールドレコーディングをすごく小さな音量で使うと聞きました。 どのようにしてその方法に至ったんでしょうか? あと、それによってリスナーにどんな影響があると思いますか?
全部の制作じゃないですけど、僕の作品のほとんどは、かなり小さい音量で潜在意識に働きかけるようにフィールドレコーディングを使います。それによって、実際の音と想像上の音を聞こうとする要因をリスナーに提供するんですよ。
フィールドレコーディング用でお気に入りのポストプロダクションツールは何ですか? 以前、MaxかMax for Liveのグラニュラー系デバイスについて話していましたよね。 そのことについて詳しく教えてください。ほかにも定期的に使っているツールはありますか?
ほとんどの場合、フィールドレコーディングにグラニュラーシンセを使用して、そこから個別の音を取り出して、もともとのレコーディング自体と重ね合わせます。 Amazing NoisesのGrain Scannerを使い続けていて、大体は質感やスペクトルの音像を得るためにほとんどのプロジェクトで使っています。 それ以外だと、Chase BlissのMOODっていうエフェクターをよく使います。それでシンセを処理していますね。
即興で作ったり、構成をしっかり考えたりと、アルバムごとにアプローチがかなり違うと言っていましたが、 それについてもう少し詳しく教えてください。 いつも具体的なコンセプトから始めていますか? それとも作業をしているうちにコンセプトが生まれてくるんでしょうか?
通常だと、コンセプトや物語があって、それがいろんな曲の基礎になります。 即興でやる場合だと、使うツールを決めて、ワンテイクで録音することがほとんどです。そういうときはいつも長い曲ですね。 構成をしっかり考える曲の場合は、そのときのコンセプトによります。いろんなツールを試すのに時間がかかるし、作業の合間に調べものをすることもありますね。曲を作っているときに、別の曲で使えそうなアイデアを得るときもありますよ。
KMRUのフィールドレコーディングをダウンロードする
※ナイロビ、ケニアのラム、ウガンダのルンクル、モントリオール、ベルリン、パリでのKMRUによるフィールドレコーディングを収録。
※収録されたフィールドレコーディングは、クリエイティブ・コモンズの表示ライセンスにもとづき、原作者のクレジットを表示するかぎり、リミックス、改変、および使用が認められています。