Kaitlyn Aurelia Smith:サウンドの壁を刻む
Kaitlyn Aurelia Smithは、カンバスから弾け出る色のようなサウンドのコラージュを作成しています。彼女のシネマティックな音楽のインスピレーションは、テリー・ライリーなどのミニマリスト・コンポーザーから、メビウスや宮崎駿といったビジュアル・アーティストまで多岐にわたります。ネオクラシカルやアンビエントとも評されるサウンドには、Smithのサウンドに独特の明確なテクスチャとパレットがあります。
Smithはバークリーで学んだミュージシャンで、モジュラー・シンセシスとの出会いはほぼ偶然で、「たまたま、1970年代に購入したBuchlaシンセをたくさん所有していた」隣人を通じてのものでした。作曲の知識と、次々とリリースを重ねることのできるサウンド・デザインへの生まれつきの才能を組み合わせることは、構成やジャンルよりも音のテクスチャにより定義されるように思えます。
オースティンのWestern Vinylからの一連のリリースは、 2016年4月1日に同レーベルから発表された最新作EARSにつながっています。現在アルバムのプロモーションでBattlesと共にツアー中のSmithは、今夏はAnimal Collectiveのツアーをサポートする予定です。
Abletonはロサンゼルスにある彼女のスタジオでKaitlyn Aurelia Smithにインタビューを敢行。シンセ、作曲、クリエイティブ・プロセスについて話を聞きました。
サウンド・パレットのトーンの組み立てはどのように?
できるだけたくさんの異なるトーン/音色を混ぜ合わせるようにしていて、テクスチャについて熟考するのが好きです。いろんな感覚をミックスさせるのが好きみたいです。サウンドに触ることができるとしたらどんな感触だろう、あるいはその逆で、たとえばテニスラケットのような触感はどのようなサウンドになるのだろう、などと考えるのが好きです。
『EARS』のインスピレーションの一部はメビウスや宮崎(駿)のビジュアル作品から来ていると読んだのですが、ビジュアルの影響がサウンド作成に反映される工程について詳しくご説明いただけますか?
これらのビジュアル作品は、私がサウンドを用いて作成したかった環境にインスピレーションを与えました。これらのイメージを見たときに私が感じた色調、色彩、感覚です。未来的なジャングルを作りたいと思ったのです。
こういった壮大なジャングルを作曲する際、作品が完成したと分かるのはどのように?
『EARS』では、私の声とベースラインが加わったときに分かりました。これら2つの要素は、『EARS』の作品の基礎となるソースです。いつもどうやって作品が完成したことを判断しているのかと考えてみたのですが、直感なんだと思います。あとは、作業を中断して聞いてみようと思うとき、これ以上何か加えたいと思わなくなったときです。
これは話をしているときに似ています。自分が話している文の終わりがどこに来るかなど、話している最中にはあまり考えません。もっと直感的なもの、単にコミュニケーションを行っているだけです。同時に、言葉を学んだり、最良の形で自分の意見を述べる方法を学ぶのにかなりの時間をかけていても、いざというときにはそういったことについては考えていません。
クリエイティビティという意味では、巨大な石を彫刻しながらその石のあるべき姿を明らかにするという創作プロセスを取るミケランジェロに共感するところがあります。それと全く逆の方法を採ることもありますが、私は削り出すことよりもサウンドの壁を作ることの方によりクリエイティビティを感じます。
反復部分を興味深いものにする方法とは?
リスナーのことを常に意識して、「いつ退屈に感じるか?」を自問するようにしています。リスナーを疲れさせるのは嫌ですから。これが、完全モジュラーのパフォーマンスを避けている理由のひとつです。エレクトロニック・ミュージックでは反復を多用しがちですから。クロックがクオンタイズされていると、モジュラーから人間的な要素を得るのが難しい場合もあります。これは非常に興味をそそります。
それでは、マシンを使用する際にどうやって人間的な要素を得ていますか?
楽器のように演奏すること、そして予測不能なフィルターでの動きによってです。また、何度も音の再配置を行い、反復がある場合は新しい要素を加えたりタイミングを変更したりして3回以上同じにならないようにしています。
3回というのは重要ですか?
学校でポール・サイモンの作曲クラスを取ったのですが、脳に同じものを3回聞かせるのは避けるべきだ、3回目に脳はイライラを感じるからと彼は話していました。それを心に留めています。この決まりにいつも従うわけではありませんが、フィルター、音色、ノート、リズムなどを少しだけ替えて変化させるようにしています。聴く者を旅に連れ出したいですからね。
聴かせていただいた作品では、リズムがボーカルの断片、トーン、テクスチャの反復から生まれているように思えました。これらのサウンドはどこから?
それぞれ異なりますが、『EARS』は全て声、アナログ・モジュラー・シンセ、このために自分で作曲した弦楽五重奏、ムビラ、フィールド録音から作られていて、グラニュラー・シンセシスを基盤として使用しています。
あなたの作業空間は非常にクリーンで整頓されていますね。作業空間と音楽の関連性についてお話しいただけますか?
私の作業空間はよく変わります。モノを動かしたり場所を移動したりするとクリエイティビティが沸くんです。今はリビングの一画が仕事場で、山々が正面に見えます。 窓に面した場所や、景色のいい場所を作業場にすることが多いです。
セットアップが変わると違った音楽が生まれると思いますか?
目新しさが加わります。あらゆるものに触れるので、ルーチンが変化し、空間に生気が加わります。それに、模様替えは一番の掃除になります。周囲が雑然としていると、クリエイティブな気分になることが非常に難しくなるんです。(モジュラーを指さして)これが大変なので。
この清潔感とモジュラーとの間に相関関係はあるのでしょうか?モジュラーがいわば「クレイジーさを放出させてくれる」といった感じなのでしょうか?
ええ。コントロールに非常に意欲をかき立てられるんです。管理するのが好きというか。モジュラー・シンセシスはある意味牛追いのような気分になります。なんとかコントロールできそうというか。乗馬のような感じもしますね、暴れ馬を手名付けているようなものでもあるので。特にチューニングやフェージングでは。モジュラーではクレイジーなノイズのようなサウンドを簡単に作成できます。モジュラーはそういう音が好きだと思うんです。そういう音をやりたいんじゃないかと。
Buchla Music Easel で作品のパフォーマンスし(てそのビデオを作成し)ていると読みましたが、あなたが感じるMusic Easelの魅力とは?
パフォーマンス・インストゥルメントとしてデザインされていて、ある程度アコースティック楽器として学ぶことができます。インプロヴァイズも反応も非常に直感的で、アコースティック楽器のように感じられます。
出会ったきっかけは?
モジュラー・シンセには、作曲に関して一番大きな影響を受けたテリー・ライリーについて話していた隣人を通じて出会いました。その隣人は1970年代に購入したBuchlaシンセをたくさん所有していて、それらを1年ほど貸してくれたんです。当時はBuchlaのことは何も知らなくて、モジュラー・シンセについても全く知識がありませんでした。でもそこから理解していきました。
当時から音楽のバックグラウンドはあったんですよね?
ええ。サウンド・エンジニアリングもです。作曲、サウンド・エンジニアリング、映画音楽作曲を学びました。でも、シンセシスについては他とは異なる方法で学びました。モジュラーを学んでから、ソフトウェア・シンセを触るようになったので。
シンセシスを学ぶには、フィジカルな相互作用を絡めて学ぶ方が良いと思いますか?
バークリーでの体験はまさにそれでしたし、これがあの学校が好きだった理由のひとつです。スタジオの機材は全てアナログでした。デジタル・コンソールもありましたが、とにかく全てを学びました。オーケストラ用の作曲なら、作品を作曲し、指揮を執り…すべてをやるんです。私にとっては、実践的な学習の方が絶対にいいです。個人的には、脳の記憶よりも筋肉の記憶の方があてになることもあります。フィルターを開いて聞くという動作をするとき、画面を見ながらマウスを使うよりも良い状態で頭の中に残る気がするんです。
コンピューターを使用する際とモジュラーを使用する際では異なる判断を下していると思いますか?
必ずしもそうとは言えませんが、コンピューターを介してシンセを操作することはほとんどありません。ソフトウェア・シンセを使用するときは、ハードウェアにマップしたり、Abletonセッションをブレーンとしてセットアップしておき、それと一緒にハードウェアを使用しています。Buchla MIDIコントローラーも持っていて、よく使っています。Buchlaとユーロラック機材の両方と通信できるようになっています。MIDIをBuchla(LEM218 MIDIコントローラー)から出力してソフトウェア・シンセをトリガーすることもあります。
Ableton Liveはどのようにクリエイティブ・ワークフローに組み込まれていますか?
Abletonはパフォーマンスに使用しています。メイン・ミキサーとプロセッサーとして使用しています。Abletonでボーカルを処理して、さまざまなBuchla Music Easelチャンネルの出力ボリュームを事前にミックスします。MIDIをEaselから送信して他のサウンドをトリガーすることもあります。
ライブ・パフォーマンスの際、ほとんどのサウンドはハードウェア・シンセから出力されているのですか、それとも一部はソフトウェアから?
準備はかなりの部分をソフトウェア上で行います。シグナル全てを予めミックスしておき、ミックスに必要なレベルにしておきます。ソフトウェア・シンセもトリガーできるようにセットアップしておきます。このアルバム/ライブでは、かなりのサウンドがハードウェアのものです。あとは私の声(サンプリングしたもの)とAbletonのソフト・シンセを少し使用しています。そこにリアルタイムの歌声と、ライブで加工したボーカルを重ねます。これがLiveの主な役割です。ブレーンとして、私の声を加工するプロセッサーとして使用しています。
予め録音されたサンプルと、リアルタイムで処理されたボーカルを使用しているのですね?
ええ、両方です。それに、約22の異なるハーモニーをNovation Launchpadからローンチしています。これらは、私の声をリアルタイムでピッチシフトする別個のボーカル・トラックです。同時進行で動作していて、キーにはロックされていないのでプレイしながらハーモニーのオンとオフを切り替えて調整します。TC Helicon Harmonizerなどがあるので、作業は増えるばかりです。でも、Abletonを通してプロセッシングすることで、好みのサウンドを得ることができます。
シンセサイザーを使用した活動の前にはどのような音楽を作っていたのですか?
オーケストラのフォークをやっていました。ひとりでやっていて、その後友人とアルバムを作成しました。それから数名の友人と一緒にライブをするようになりました。クラシック・ギターを学んでいたので、ギターを弾いて歌っていました。エフェクトやプロセッシングは一切なしです。完全ドライの世界で、今私がやっている音楽の正反対のものです。
他のアーティストの作品を意識しますか?それとも、どちらかというと内から生まれてくるものを重視するタイプですか?
意識内から生まれてくるものです。学校では、人の作品を聴き、音写したり、分析したりという作業をたくさんやりました。今では、それは何かから影響を受けたいと強く興味を持ったときにしかやりません。仕事や何らかの目的のために必要であれば、何かの真似をすることはできます。でも、独自のクリエイティビティから何かをする場合、何かに合わせるのは非常に大変に感じます。
音楽を聴くことはあまりないんです。感化されたいと思うときに聴きます。アフリカ音楽やタブラ音楽はかなり聴きますね。頭に残るという感じではなく、音に浸るという感じです。自然のサウンドにはとても刺激されます。自然の中に静かにたたずみ、周りの音に耳を傾ける感覚。私のクリエイティビティの最大の源泉と言えるかもしれません。
Kaitlyn Aurelia Smithについて詳しくは、Twitter、Instagram、Facebookおよび彼女のウェブサイトをご覧ください。