JNTHN STEIN: ビートメーカーの仕事ぶり
私たちが初めてJNTHN STEINと出会ったのは、これから公開予定の若きプロデューサー・チームTeam Supremeのドキュメンタリーを制作していたときでした。他のすべてのTeam Superemeのメンバーと同様に、STEINのビートメーキングのスキルに私たちは驚かされたのです。そのため、私たちはこの25歳のおおらかながらも巧みで、高度に洗練されたワークフローを持つ彼に、カメラの前でPushを使ってゼロからビートを作ってもらうことにしました。
こうして完成した3曲はEPとして配信リリースされてます。下のビデオでは、 JNTHN STEINがその中の1曲を作る様子 ー全くの白紙状態から楽曲「Berlin III」が完成するまでー と、その各工程の意味と説明を見ることが出来ます。
その後に続くインタビューでは、JNTHN STEIN自身がどのようにリズム・パターンをプログラムしているか、どのようなアレンジの仕方をしているか、また彼の音楽的・哲学的な創造的アイディアの源についてなど、彼の制作プロセスについてさらに詳しく説明してくれています。
リズム:ポジティブとネガティブのスペース
「Berlin I」のリズム・パターンにおいて、あなたは興味深いキックとスネアの配置をしています。ビートを作る際、何を取り除くかを、何を入れるかと同じくらい意識していますか?
リズムは、ダウンビートとアップビート、音と無音によって全体のグリッドを形成します。ダウンビートに比重を置いたビートはより下へと向かう力が働いて足を踏みならしたくさせ、アップビートに比重があれば上へ向かう力が働いてジャンプしたり踵を上げたくさせる。リズムの密度(音と無音の対比という意味で)がビートのテクスチャーを作り上げます。音符がたくさん詰まっていればより整合性とフローが出て、よりスムースで心地よく感じられます。
ただし密度が高すぎるということもあり得て、その場合はとっ散らかった、慌ただしく落ち着かない印象になってしまいます。その一方で、ビートの音数が少なければ無音がサスペンスをもたらし、次に何が起こるのかという期待を盛り上げます。アニメの静止場面や、ホラー映画で化け物が飛び出す直前の瞬間のように、聴く者を過敏な状態にするのです。ビート密度(音符と休符)のパラメーターとビート配置の両極性(各グリッドにおけるダウンビートとアップビートの配置)を対比させてミックスすることが、怖くてショッキングで重いものから、心地よく軽快でふわふわしたものまで、あらゆる雰囲気のリズムを作る上でもっとも重要なことだと言えます。
これを踏まえて僕がビートを作る際、まずは基本的な鼓動のフレームワーク、通常は2拍目か4拍目のバックビート、もしくは1/4の一定のハイハットの拍子など、リスナー(と作り手である自分)がその後展開するシンコペーションのカオスに突入しても追うことが出来る安定した土台となる部分から作り始めます。そこに基本的なベースドラムのパターン、何かそれ自体がメロディアスなものを乗せます。ベースドラムはビート全体の中でも目立つ要素なので、それが曲のリズム的なテーマになります。これはかなりシンプルでありながら、魅力的で予想外でなくてはいけません。1小節分のパターンをまず作り、それを複製して少し変化を付け、2小節分のパターンを作り、それを繰り返してひとつの文章、あるいはメロディーのようなものに感じられるまでだいたい8〜16小節分繋いでいきます。一定のバックビート/ハット/パーカッションに対してベースドラムが上手く組み合わさるようになったら、速くて散在的あるいはゆっくりとグリッドでシンコペートするバウンシーな、補助的なサウンドやリズムで余っているネガティブなスペースを埋めていきます。秘訣はベースドラムとバックビートだけでも良く聴こえるビートを作っておくことで、そうすればそれ以外の後から足す音によって、バリエーションや後半の展開を作り上げることが出来ます。
これを逆の順番でやることも出来ます。速くエクレクティックなハットによって、Pushで32分音符や32分3行連音符といった速いグリッドを立ち上げ、一定の流れをトラップ・スタイルさながらに作って、ところどころでタップしてそのいくつかを削除し、ヴェロシティをいじってその流れに波や窪みを足すんです。大抵の場合は、僕はゼロから組み立てる方が好きで、その方がより意識的に何を足すか、どのように無音を使うか吟味出来る。僕はここをとても重要視しているので、より効果的なやり方だと思います。でも、削除キーを使うことを恐れないように。それはあなたの最も大切で素直な友達ですから。
ワークフロー:サウンドの順序、スケールの洗濯、スペクトルの充填
あなたのワークフローにおいて、リスム、メロディー、ハーモニーはどのような関係性ですか?トラックを作る際はこのうちのどれか1つからまず作るのでしょうか?
僕はほとんどいつもドラムだけ先に作り始めます。リズムは最も重要で身体的な音楽要素なので、曲/ビートというのはドラムだけでも聴こえが良くあるべきなんです。ですから、ドラムだけを先に作ることはこれを実現するのにいい方法で、必要なエネルギーと感情を込めたドラム部分を作ることが出来れば、ドラムだけで土台部分をすでに持ち上げてくれているわけですから、残りのレイヤーを重ねることが容易になります。ドラム音の選び方に関しては、スクロールしてそれぞれのエンベロープと音色を考慮します。激しく攻撃的なビートには、明るく過渡がよりシャープなドラムを選び、スムースでふわふわしたバウンシーなビートには、暗くサステインが多くアタックが柔らかいものに耳がいきます。
そこからは、目的に応じてもう少し柔軟な作り方になります。多くの場合、僕の次のステップはベース音で、ベースドラムの次に重要な曲の構成要素です。エレクトロニック・ミュージックにおいては、ベースが新たなメロディック・ヴォイスになってきていて、嬉しいことです。それがかなり純粋なサイン波であれ、矩形波あるいはノコギリ波から生成された明るく厚みのあるものであれ、ノイズやその他の混沌とした荒い要素であれ、電気ベースやより生っぽく有機的なものであれ、ベース音のキャラクターが曲の残りの部分のトーンを決定づけます。
「Berlin II」と「Berlin III」では、僕の次なるステップはハーモニー/メロディーだったので、真っ先にキーボード楽器、具体的にはRhodesとピアノに向かいました。これはよくやることで、僕はもともとキーボーディストなので特にこの2つの楽器には馴染みがあるんです。これらを使って、コードのトップ・ノートをメロディーとして、ハーモニーとメロディーの両方を同時にスケッチします。ハーモニーは通常その音楽のムードや感情を最も左右するので、これまでほぼ全ての文化運動に何らかのかたちで関係して来た長い歴史があります。瞬時に記憶を呼び覚ますものなんです。しかしながら、ハーモニー作りから始めてしまうと、あまりに固いテンプレートが出来上がってしまい、音符の選択やピッチを狭めてしまうので、バリエーションを作るとなると要素を削っていくことしか出来なくなります。僕が「Berlin II」でやったような気ままなバリエーション作りが難しくなりますね。
エレクトロニック・ミュージックにおいては、ベースが新たなメロディック・ヴォイスになってきていて、嬉しいことです。
僕は、純粋にメロディを先行させて作るのがベストだと思います。それが曲のトーンを決定するベースであれ、ハーモニーに依存しない独立した叙情的メロディーであれ、それに沿ってほぼ無限のハーモニー・バリエーションで曲を展開させていくことが可能だからです。これらのメロディーはシンプルでなければならず、僕はドラム/ベースドラム・パターンと同じ方法で作ります。最終的に出来上がるものは、キャッチーで口ずさめる、全音階の、8〜16小節程度の消化しやすい長さが望ましい。もしくは、音符や音階のことはすっかり無視して、まず日常生活を思わせるようなサウンドから取り掛かり、メロディーの動きや輪郭にフォーカスするのもありです。
「Berlin I」では、何かシュールで少し怖いようなトリッピーな、でも強烈な曲を目指しました。ですから、最初のメロディーのレイヤーはCollisionを使用して作ったポトンっという、曲の始めに聴こえる共鳴音です。このサウンドにはまるでパーカッションのような音響特性がありますが、ピッチとメロディーとなる潜在力も持っています。確かに全音階には人間的な感情が感じられますが、半音階には原始の動物的な感情がある。だから、ここでのメロディーは露骨に降下していく半音階にしました。最初に着手するメロディー・パートがどれであれ、まずはそれに全力を尽くして曲全体をそれ中心に展開させていけるか試してみます。A・Bパート両方に用いられるたくさんの可変素材のオスティナートとして、あるいはその小さな一部分のみを使用するにしても、または異なるネタを作るために脱構築するにしても、オーディオ・サンプルを操作することでプロダクションにあらゆる生かされ方が出来るのと同じように、色々試してみるのです。
スペクトルは最終的な仕上げにおいてとても重要です。僕はピンク・ノイズ曲線を大いに信じていて、常にこれを反映して自然な、僕たちが日常耳にしている音になるべく近づけるように完成させます。この曲線の中にもまだリラクゼーションやワクワク感などを創造する余白が十分にあるので、それの中にドラムとベースだけのよりダークで冷たいビートの一部なり、ハットの乗ったものなり、明るいシンセやメロディー、その他の1Khz以上の耳に刺激的で他のパートを濃密にするような要素を入れ込むことが出来ます。最終的なゴールはスペクトル曲線全体をくまなく埋めることですが、その過程でなるべく多くの削減とブレークダウンの可能性も探ることが理想的です。
要約すると、音楽要素には優先順位があり、リズムがその最も重要な要素であることは明らかですが、その次に個性と個人的な接点と反応を作り出すメロディー、そして感情的かつ懐古的な文脈を作り出すハーモニーと続きます。これらの全ての組み合わせがスペクトルというより大きな全体図を構成しますが、エレクトロニック・ミュージックというのはまだ存在していない未来のサウンドを作り上げることで、低周波と高周波、そしてその間にあるもので作曲されているにすぎないのです。
アレンジ:鍵はコントラスト
一般的なアレンジメントの組み立て方は、1つのテーマのバリエーションを編集し、シーケンスに変化を加えることですよね?あなたもこのような方法で作業しますか?それとも異なるアレンジメント戦略をお持ちですか?
既に述べた答えを補足することになりますが、僕は1つのアイディアを元にAパートを作り、その全てのバリエーションをビート全体の上でアレンジして異なる強度の弧を描いていきます。同じリード・メロディーのアイディアを使いながら、意識的にBパートはそれとはなるべく劇的にコントラストをつけるようにして、単一の音楽要素だけを唯一の接点とさせます。これがとても上手くいくときと、そうでないときがあるのは確かです。でも、僕はあらゆる2つのものは対比させることもミックスさせることも出来るという考えが好きなんです。カオティックな文化的不合理がごちゃまぜになって、その上に積み重なるような。
「Berlin III」(STEINが冒頭のビデオ内で制作している楽曲)では、AとBの両パートに重複している素材がかなりあり、よりスムースな流れを作っています。AとBでははほぼ同じドラムが使われていて、メロディーも同じですが、Aでは華やかなコード進行があるのに対し、Bではそれを取り払って純粋なワン・コードのハードロック・リフにして、一方をR&B/華やかにもう一方をロック/粗く、というコントラストをつけました。
最初に着手するメロディー・パートがどれであれ、まずはそれに全力を尽くして曲全体をそれ中心に展開させていけるか試してみます。
全般において僕にとってコントラストはとても重要で、ワクワクした感じがしますし、常に予想外の結果に導いてくれます。作曲家である自分にとってさえも予想外の作品を作る良い方法は、AパートとBパートを無造作に混ぜてしまうことで、どさっと片方の要素をもう片方に乗っけてしまってどうなるかを試してみるんです。AとBに共通の構成要素があるということが、何らかのきっかけとなってこの混合物を効果的にし、その上サプライズのある自分でも想定していなかったようなことを起こします。これは楽しいですよ。
要約すると、全範囲的なアートを創造するためにはコントラストが鍵となり、楽しい〜悲しい、セクシー〜怖い、美しい〜醜いといった幅広さが表現出来ます。リアルに感じられるもの、しかも作り手自身も聴いたことや見たことがないものを作るには、その幅広さを全て見せることが必要なんです。コントラストを生み出すには単一のアイディア(A)に対し、常に矛盾する視点(B)がなければなりません。AとBは対立するものですが、最終的には共存し、やがて1つになり、ひとつの幅広いアイディア(AB)となります。それぞれはあなたが生み出したものでも、それらはあなたが知らない間に勝手にそれぞれ育つので、あなたのアイディア、考え、先入観、エゴ、の範疇を超えた説得力を持ちます。その結果はあなたを表すものではありません、あなたの進歩を表すのです。
JNTHN STEINの最新動向は Soundcloud とTwitter で。