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Herbalistek x Allen Mock:実験的アプローチで探求するベースミュージックの深淵
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東京を拠点に活動するHerbalistekとAllen Mockは、独創的なベースミュージックで注目を集めるプロデューサー/DJたちです。幼少期をアメリカで過ごした彼らは、大学時代のDJイベントで出会い、ベースミュージックへの共通の情熱から、共に音楽制作の道を歩み始めました。
Herbalistekは、ダークでディープなベースミュージックに独自の解釈を加え、実験的なサウンドデザインと一貫したグルーヴ性で知られています。一方、Allen Mockは重低音へのこだわりから常にサブベースを起点に楽曲を組み立て、多様なジャンルの要素を融合させた独創的なサウンドを生み出しています。両者に共通するのは、Ableton Liveを駆使した斬新な制作アプローチです。Max for LiveのLFOを多用し、マクロのランダム機能を活用することで予測不可能な音の変化を生み出す一方、一直線のMIDIノートから複雑なメロディを紡ぎ出すなど、独自の制作技法を確立しています。その手法は2022年のコラボレーションEP『Into the Ether』や2024年の『Pearson Sound - XLB (Allen Mock x Herbalistek Remix)』で存分に発揮され、高い評価を得ています。
本インタビューでは、彼らのエフェクト・ラック活用法という実践的な制作テクニックから、現在のベースミュージックシーンの最新トレンド、さらには東京のアンダーグラウンドシーンの現状まで、幅広い話題が語られています。また、彼らが制作したエフェクト・ラックも提供されています。
*Live 12.1 Suiteライセンスまたは無料体験版が必要です。
ご注意:このLiveセットおよび付属するサンプルは教育目的の使用に限定されており、商業目的での利用はできません。
音楽制作の変遷や音楽的なバックボーンを教えてください。
Noa:僕はアメリカで生まれ育ち、幼い頃からヒップホップをよく聴いていました。日本の大学でYotaと出会ったことをきっかけにDJ活動や音楽制作を始めるようになりました。
Yota:僕の場合、DJ活動を始める前はほとんど音楽経験がなく、学校の授業で少しサックスを学んだり、家でギターを触る程度でした。本格的な音楽活動は大学に入ってからですね。
Allen Mock:僕もNoaと同様、子供の頃はアメリカに住んでいて、ヒップホップやエレクトロ系のバンドをよく聴いていました。日本に戻ってからは、Herbalistekの2人と別の大学に通っていましたが、学生イベントでNoaとYotaに出会い、一緒に過ごすようになりました。そこからいつの間にか、ベースミュージックを作るようになっていましたね。
ベースミュージックに興味を持ったきっかけは?
Allen Mock:クラブの高品質なサウンドシステムで聴いた時に、その魅力に引き込まれました。その時にベースミュージックの重低音には、スマホやPCのスピーカーでは感じることのできない特別な魅力があるということに気づきました。
Noa:僕が大学生だった頃はEDMが流行していたこともあって、当時から親しんでいたヒップホップとEDMが融合したようなベースミュージックに強く惹かれました。ベースミュージックには様々なサブジャンルがあり、その定義も幅広いのですが、中でもヒップホップとエレクトロニックミュージックの融合という特徴に魅力を感じたことでベースミュージックにのめり込むようになりましたね。
Yota:実は僕はNoaとAllen Mockに出会うまで、音楽に深く没頭したことはありませんでした。ただ、Noaには音楽の様々な側面を、Allen Mockにはトラップミュージックの魅力を教えてもらいました。そこからベースミュージックを深く掘り下げていく中で、誰も聴いたことのない音と言葉では説明できない感情を表現できる音楽だと思うようになりました。
音楽活動はDJから始めたのですか?それともいきなり楽曲制作から始めたのですか?
Noa:僕らは最初はDJからですね。そもそもDJは他人の曲を使ってミックスしていきますが、DJを続けるうちに、自分たちの世界観を表現したいと強く思うようになりました。それで最初は苦労しましたが他人の曲だけでは、どうしてもオリジナリティに欠けると感じ、自分たちで曲を作るようになりました。
Yota:人前でDJをするのは楽しかったのですが、次第に物足りなくなりました。自分だけの世界観を表現したいと思い、Noaが言ったようにオリジナルのベースミュージックを作り始めました。
Allen Mock:僕も2人と同じようにDJから始めました。より楽しいDJセットにするために、好きな曲をリミックスしたいと思ったことをきっかけに音楽制作を始めました。
現在、ベースミュージックシーンは多様化していますが、制作されているディープ系ベースミュージックシーンの現状について教えてください。
Noa:今やベースミュージックは世界中で展開されていて、その定義も国や地域によって異なります。僕たちが制作しているディープ系のベースミュージックにも様々なシーンが存在しています。2024年に2度アメリカの音楽フェスに出演しましたが、3~5年前と比較して、ドラムンベースやガラージなどUKサウンドの影響を受けたアーティストや楽曲が増加していると感じました。また、僕らやAllen Mockが取り組んでいるBPM140のディープダブステップも頻繁に耳にしましたね。
このことから現在は以前のようなエネルギッシュで突発的なサウンドよりもグルーヴ感を持ちながらアグレッシブに重低音で遊ぶようなサウンドが主流になっている印象です。日本ではまだメインストリームとは言えませんが、DJ Krushさんのように、アメリカの音楽フェスでプレイされるディープダブステップと親和性の高いサウンドを追求する国内アーティストも少なからず存在します。
Allen Mock:僕の印象では、アメリカではインパクトの強い派手めなサウンドのベースミュージックの方が人気を集めていると感じています。ただし、アメリカのシーンは大きく、僕らが手がけているようなディープなベースミュージックにも、確かな需要があると思います。
Noa:東京にもベースミュージックやダブステップのイベントは存在しますが、ディープなベースミュージックに特化したイベントはまだ多くありません。一方でテクノのイベントではこういった音楽を取り入れるDJも増えているので、注目度は確実に高まっています。これを踏まえて、東京でもこのシーンがより盛り上がってくれると嬉しいです。
近年、ベースミュージックシーンでトレンドになっている、あるいは注目しているサウンド要素はありますか?
Yota:国によってスタイルが大きく異なるので一概には言えませんが、僕らはアメリカとヨーロッパ、両方の要素を取り入れています。特にアメリカのベースミュージックは、スケールの大きいサウンド、ヒップホップ調のビート、そして斬新なサイケデリックな音が特徴的です。
Noa:日本にいるメリットとして、世界中の様々なシーンから影響を受けられる環境があります。僕は音楽をディグすることが好きで、特に最近はフランスのベースミュージックシーンに注目しています。フランスのシーンでは、アメリカとは対照的に音を徐々に重ねながらプログレッシブに展開していく手法が特徴的です。
この制作スタイルについて、あるフランス人アーティストに話を聞く機会がありました。彼の説明によると、ヨーロッパを拠点としながらベースミュージックやダブステップに親しみながら、さらにディープテックにも触れる中で、テクノミュージックのトラック構成をベースミュージックに融合させるというアイデアが生まれたそうです。このようなテクノの要素を取り入れた独自のスタイルは、最近のフランスのベースミュージックシーンでは珍しくありません。アメリカとフランス、両国が素晴らしい独自性を持ってベースミュージックを展開していると感じています。
Allen Mock:2024年に入って、Noaがフランスのベースミュージックシーンを熱心に紹介し始めた頃、よく「フランスのベースミュージックがヤバい」と絶賛していました。僕も実際に聴いてみましたが、本当に斬新で面白いですね。テクノとベースミュージックの良さを融合した、素晴らしい楽曲が生まれていると思います。
東京で独自に発展しているベースミュージックシーンや、海外とのハブになっているコミュニティやイベントはありますか?
Yota:日本のベースミュージックシーンにも、特徴の異なる魅力的なイベントが存在しています。例えば、20代前半のベースミュージック好きに支持されている「Beginning」では、アメリカ寄りのベースミュージックからドラムンベース、テックハウスまで、幅広いジャンルのアーティストが出演しています。
Noa:日本のダブステップシーンで言えば、やはりBack To Chillが挙げられますね。このパーティは長年にわたって開催され続けており、レーベルも運営されています。特に、DEEP MEDi MUSIKからリリースをしているGOTH-TRADさんは、世界的に活躍されている日本のベースミュージックを象徴するアーティストの一人です。彼がこのシーンを日本にしっかりと根付かせた功績はとても大きく、Back To Chillはまさにその中心にある重要なイベントです。
アメリカに行った際も、“日本のベースミュージックといえばGOTH-TRAD”と話す方が多かったことが印象的でした。昨年は、ダブステップ界の大レジェンドであるMalaも招かれていて、シーンにとって本当に特別なイベントだと改めて感じました。自分たちがベースミュージックと出会う前から続いているこのイベントは、日本のシーンにとって欠かせない存在ですね。
それと「解体新書」というイベントも注目を集めています。このイベントはヨーロッパで人気のあるベースミュージックやテクノのアーティストを独自の視点でブッキングしているのが特徴です。
Yota:僕たちも「SECTOR」と「PRIMAL」という2つのベースミュージックイベントを不定期で開催しています。「SECTOR」は、GOTH-TRADさんやDJ Krushさんといった実力派の国内アーティストを招きながら、ベースミュージックの魅力を伝える目的で開催しているイベントです。今後は海外アーティストのブッキングも視野に入れ、さらなる規模の拡大を目指しています。一方、「PRIMAL」は、国内のダブステッププロデューサーであるDayzeroとHerbalistekが共同で開催する、よりローカルで親密な雰囲気のイベントです。2025年からは定期開催を予定するなど、新たに展開していくつもりです。
みなさんは東京を拠点に活動しながら、海外のシーンとも繋がっています。日本のベースミュージックアーティストがグローバルで活躍する上で求められる要素は何だと思いますか?
Yota:オリジナリティの追求は非常に重要です。日本のベースミュージックシーンは規模が小さく、周りのアーティストの影響を受けやすい環境ですが、単なる模倣ではなく、自分が本当に伝えたいものを追求することが大切だと考えています。時間はかかるかもしれませんが、その独自性を追求し続けることで、確実にコアなファンを獲得でき、そのユニークさが評価されていくはずです。
Noa:それに加えて、作品のリリースも重要な要素です。ただでさえ、今は毎日のように新しい曲がリリースされているので、リリースを躊躇していては誰にも届きません。また、SNSでの発信やリスペクトするアーティストに曲を送ることなども、有効な手段だと思います。
Allen Mock:あと音楽仲間とのネットワークやコネクションも欠かせませんね。初めは不安や競争への恐れもあると思います。でも、自分と好きなサウンドが近い仲間との交流から学べることも多いと思います。それに音楽への情熱があるのなら、3年で諦めるのではなく、30年、何なら生涯をかけて続けていくべきです。そういった長期的な活動を支えるてくれるのがまさにコミュニティの存在だと思いますね。
まさにみなさんのような関係性ですね。
Noa:その通りです。1人での活動より、仲間がいることで勇気づけられます。僕らも活動初期には多くのDJやプロデューサーが周りにいましたが、そのころからこの2組で継続的に活動してきました。もちろん、まったく泣かず飛ばすの厳しい時期もありましたが、お互いに励まし合えたからこそ、今も音楽活動を続けられています。
Ableton Liveを導入したきっかけを教えてもらえますか?
Allen Mock:好きなアーティストが使用しているのをチュートリアルで見て、憧れて使い始めました。好きなロックスターが使っているギターを手に入れたくなるような、そんな感覚でしたね。
Yota:Allen Mockが最初にLiveを使い始め、僕らも影響を受けてAbleton Liveでの制作を始めました。3人で手探りながら使い方を学び、一緒に音楽制作に取り組みました。
Noa:そういう意味では、Allen MockがYouTubeのチュートリアル動画などでAbleton Liveを学びながら曲を作っていく姿に大きな刺激を受けましたね。特に彼が送ってくれた自作の曲に驚き、もっと頑張ろうという気持ちになったことを憶えています。また、当時フォローしていたプロデューサーの多くがAbleton Liveを使用していたことや、Ableton Liveを使いながら制作テクニックをわかりやすく解説するYouTuberが多かったことも使い続けた理由のひとつです。
他にAbleton製品は導入していますか?
Yota:実はAbleton製品に限らず、ハードウェアは一切使用せず、基本的にPCとAbleton Live、外部プラグインのみで制作しています。それ以外の機材となるとMax for Liveは頻繁に使用していますね。最初の5年間はMacBookとイヤホン、ヘッドホンだけで制作を行い、ミキシングもそれらで完結させていましたが、最近になってようやくモニタースピーカーの導入を検討し始めました。
Noa:ただ、僕たちは3人でB2BセットのDJをよく行うのですが、最近よく話に出るのは3人の手をフル活用したいということです。その方法のひとつとして、今後はライブセットをやっていきたいと思っているので、そのためにAbleton Pushの導入も考えています。
Allen Mock:僕も制作環境に関しては、2人と同じです。そのため、MIDIキーボードすら使用せずに制作していますが、MIDIノートを一直線に入力し、その音をメロディーに変換する手法を好んで使っています。特にMax for LiveのProbability Arpというデバイスでフレーズを生成し、気に入った音を見つけていくのが好きです。通常の打ち込みとは異なる魅力があり、音楽理論を学んでいない僕にとって、この方法は最も楽しい制作手段です。
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一直線に入力したMIDIノートからフレーズを生成する際に使用するMax for LiveのProbability Arpを挿入したエフェクト・ラック。
Ableton Liveで特に気に入っている機能を教えてもらえますか?
Yota:マクロのランダム機能が特に気に入っています。この機能によってサウンドデザインがより創造的になりました。新しい楽器を使う際は、全てのパラメーターをマクロにアサインし、ランダムボタンを押して録音します。これにより、思いがけない音や楽器の新しい特性を発見でき、気に入った設定はプリセットとして保存できます。
Noa:僕たち3人は特にMax for LiveのLFOというデバイスを多用しています。いつもそれをCPUの限界まで挿入して、遊び感覚でサウンドデザインを楽しんでいますね。このデバイスは様々なパラメーターをマッピングできるため、まるでハードウェアのモジュラーシンセのように自由度の高い音作りが可能です。
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サウンドデザイン用に多用するLFOには様々なパラメーターがマッピングされている。
Allen Mock:僕の場合はオーディオエフェクトのDelayとEchoをほぼ全ての楽曲で使用しています。
Yota:また、僕たち3人は音楽理論を専門的に学んだ経験はありませんが、Liveのスケール機能によって新しい制作アプローチを見出すことができました。以前は耳で音程を確認する程度でしたが、今では音階をサウンドデザインの要素として捉え、一直線のMIDIノートからさまざまな音程や音階の音を引き出すことを意識しています。
Noa:そういった意味では、以前、Allen Mockの曲のメロディカルなフレーズが一直線のMIDIから生成されていたと知った時は、衝撃を受けましたね。でも、Ableton Liveでは、そのようなこともできてしまいます。こういったAbleton Liveならではのランダム性の中から理想的な音やメロディーを見つけ出していく過程に僕は大きな魅力を感じています。
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実際に入力された一直線のMIDIノート。様々なデバイスを駆使し、ここからメロディカルなフレーズが生成される。
普段のトラック制作の仕方を教えてください。
Allen Mock:僕はいつもサブベースから作り始めます。キックとスネアを加えてサブベースとの相性を確認し、それが良ければ16小節のビートループを作ります。メロディーは基本的に最後に作成しますが、それだけで十分だと感じた場合は、メロディーを入れないこともありますね。
Yota:他のプロデューサーとコラボレーションする場合、送られてくるプロジェクトファイルの一番上にあるのは、大抵ドラムのトラックだと思います。でも、Allen Mockとコラボレーションする時に送られてくるプロジェクトファイルでは、必ずサブベースのトラックが一番上にあります。そういったところから彼のサブベースへの尋常じゃないこだわりを感じますね(笑)。
Noa:通常サブベースは他のパートを支える役割です。でも、サブベースから作り始めるこのアプローチは、まさにAllen Mockらしいというか、ベースミュージックプロデューサーならではの手法だと思います。
なぜそのような制作プロセスに?
Allen Mock:特別な理由はありませんが、いつも曲作りは最も楽しい部分から始めたいと思っています。そう考えると僕にとってサブベースが最も心地良い音であり、作っていて一番楽しい音なので、自然とこの方法になりました。
Herbalistekはどのような制作プロセスで曲を作るのですか?
Yota:僕らは、メンバーそれぞれで作り方が異なります。例えば、僕はサウンドデザインが好きなので、まず音作りから始めます。だから、普段はサウンドデザインとビートメイクを意識的に分けていますね。また、サウンドデザインではルールを設けず、自由に音を作ってサンプル化し、それからビートを乗せていきます。あと、シンセサイザーで音を作っているうちに当初のイメージを見失うことがあるため、自作の音を録音してサンプルを切り貼りする方が僕にとってはより創造的なアプローチですね。
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"まな板トラック”に自作の長いサンプルをおき、そこから好みの音を切り取る「マッド・パイ」の様子。
Noa:僕は踊りやすい音楽のグルーヴが好きなので、ドラムパートから作り始めますね。HerbalistekではYotaがサウンドデザインを担当していますが、彼がやっているように長いサンプルを"まな板トラック"に置いて、そこから面白い部分を見つける手法は、海外では「マッド・パイ」と呼ばれています。
だから、いつも30分程度の長いサンプルから興味深い部分を切り取り、そこにドラムを入れて実験的に遊び感覚で作っていくことが多いですね。また、そこにインストゥルメントを重ねていくこともあります。
ベースミュージックを作る上で心掛けていることや、普段使っている制作テクニックを教えてください。
Noa:ベースミュージックの制作にルールはないと考えているので、オリジナリティを重視し、良い意味で「意味の分からないこと」に挑戦しています。例えば、BPMを一時的にゼロにしたり、マスターにEchoを目一杯かけたりと、通常の音楽制作では避けるようなことも積極的に試しています。そうすることでグリッドから外れた予想外の面白い音が生まれます。例えば、さっきの例で言えば、BPMを遅くした部分を使うと、ブレークがゆっくりとビルドアップするような効果が得られます。
Yota:あるベースミュージックアーティストの友人から「エフェクトが良ければ、さらに20個挿入してみろ」とアドバイスされたことがあります。普通に考えるとあまりそういうことをしないと思いますが、実際に試してみると興味深い結果が得られました。
Allen Mock:2人が言うように、柔軟な発想で面白いことを試すのは重要です。ただし、その後で「やり過ぎた部分はないか」「自分の音楽としてこれでいいのか」と振り返ることも大切だと思いますね。そうすることでさらに面白い作品に発展していくはずです。
『Into the Ether』(2022)EPや『Pearson Sound - XLB (Allen Mock x Herbalistek Remix)』(2024)など、2組のコラボレーション作品も制作されていますが、いつもコラボレーションはどのようなプロセスで行うのですか?
Noa:僕たち3人は仲が良く、良好な関係を築けていることもあって、以前は毎週集まって制作していました。でも、最近はクラブ系の作品を作ることが減ったこともあり、集まって制作することはその頃よりも少なくなりましたが、それでも週1回程度は顔を合わせるようにしています。
ただ、多くのコラボレーション作品を制作していた時期は、直接会って一緒に制作することの価値を強く実感していました。海外アーティストとのコラボレーションでは、よくプロジェクトファイルを送り合いメールでやり取りしますが、直接会って制作すると、その場でしか生まれないアイデアがあり、完成する楽曲の内容も大きく異なってきます。例えば、30分ずつ同じプロジェクトファイルを回し合うだけでも、興味深い結果が得られるし、新しい発見が常にあります。
Yota:僕ら3人は制作技術もほぼ同じなので、複数のPCを使って異なる楽曲を同時並行で制作することもありました。
Allen Mock:Herbalistekとのコラボレーションでは、僕がサブベースから作り始めることを理解してくれているので、彼らが送ってくれるプロジェクトファイルにはサブベースが入っていません。そういった配慮は本当にありがたいですね(笑)。
今回ご提供いただいたエフェクト・ラックのプリセットについて説明してもらえますか?
Allen Mock:まず1つ目は、Reverbを活用したアンビエント用のエフェクト・ラックです。Reverbの[Dry/Wet]などをマクロにアサインし、[Decay Time]を10〜20秒に設定することで長いテールを生成し、それをグループ化しています。
※HAAS REVERB RACK-1の使用には、別途ml.Distance doppler 1.0のインストールが必要です。
ml.Distance doppler 1.0をダウンロードする
2つ目は、OTTと3つのAuto Filterを組み合わせたエフェクトラックです。OTTの[Split Freq]の[High]を1000Hz以下に設定して、シャリシャリした音を抑制し、リバーブのテールを綺麗に整えます。次に3つのAuto Filterのパラメータを動かすと、そのテールが波打つような感じになります。
さらに動きを加えたい時のためにPhaserとLFOも挿入しています。Phaserの[Poles][Envelope][Frequency][Feedback]の値をランダムにコントロールするのですが、この時は主にLFOでランダマイズします。これは僕の得意とする手法ですね。
最後は、Echoを中心としたエフェクト・ラックです。こちらでハイハットやスネアの高音域を適度に削ることで、耳障りな音が絶妙にクリスピーな音質に変化します。
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Echoを使って高音域を適度に削り、耳障りな音を絶妙にクリスピーな音質に変化させる。
Herbalistekからご提供いただいたエフェクト・ラックのプリセットについてもYotaさんから説明をお願いできますか?
Yota:最初にご紹介するのはSamplerを使用したサウンドデザイン用のエフェクト・ラックです。ここではまずピッチに関連する全てのパラメーターをマクロにアサインしています。そして、Samplerにサンプルを入れて[Rand]ボタンを押すと、ランダムに音が再生され、良質なサンプルを使用すると独特のうねりを生み出せるので普段からこれを多用しています。また、SamplerはMIDIノートを入力すると、ずっと同一の音しか再生しないため、Velocityを挿入して毎回全く異なるベロシティをランダムに出力できるように設定しています。
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Samplerのランダム機能とVelocityを活用して、変化に富んだうねりのある音を生成する。
さらにベロシティの変化に応じて、いろいろなパラメータを変更できるようにSamplerの[MIDI]設定で[Sample Offset]を選択し、そこの値を100に設定します。こうするとベロシティの変化に応じてサンプルのスタート位置が変わり、一直線のMIDIノートでも毎回異なる音を生成できます。さらに[Rand]ボタンで、全く新しい音を作り出すことも可能です。
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ベロシティの変化でサンプルの開始位置を変え、毎回異なる音を生成する。
次のエフェクト・ラックは、Max for LiveのFlechtwerkとMDD SnAkEを組み合わせたものです。Flechtwerkは多彩な音を含むサウンドデザイン用デバイス、MDD SnAkEはキーやスケール設定、ランダマイズ機能を備えたシーケンサーです。これらを組み合わせることで、多様なフレーズやリズムを簡単に作成できるので、アイデアが浮かばない時はよくこれを使っています。
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MDD SnAkEとFlechtwerkを組み合わせて、多様なフレーズやリズムを生成する。
※Quick Loop Ideasの使用には、別途FlechtwerkおよびMDD SnAkE 3.2.3のインストールが必要です。
Flechtwerkをダウンロードする
MDD SnAkE 3.2.3をダウンロードする
音楽理論に詳しくない僕は「最小限のMIDIノートで綺麗な音を作る」ことを常に心がけています。こちらのエフェクト・ラックでは、一直線のMIDIノートに対して、Arpeggiatorでアルペジオを生成し、Chordでマイナーコードを作成、Note Lengthで各ノートの長さを調整、Expression Controlでノートの長さをランダマイズしています。
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5つのRandomとそのスケール機能を活用し、調和の取れたランダムフレーズを生成する。
また、最後にRandomを挿入していますが、Live 12ではこのMIDIエフェクトでスケールを指定できるようになり、ランダムに音を鳴らしつつも、その音がスケールから外れなくなりました。僕はRandomを5つ挿入して、高音から低音まで必ずどこかの音程の音が鳴るようにしていますが、最後に挿入したRandomのみスケール指定を適用しています。このエフェクト・ラックはパッド、ベース、シンセなど様々な楽器に適用できるため、特にほどよく美しいフレーズを作成したい時に重宝します。