Cloudchord:種をまき育てるThe Bloom Bap Garden
Cloudchordの最新アルバム『Bloom Bap』のジャケットのアートワークは、ギターネックがループしながら枝に変形している様とその横にあるターンテーブルの切り株。 そんなトリップする様な夜の庭園の風景は、ヒップホップのビートやジャジーなコード、ファンキーなパッセージに合わせて、豊かなギターチョーキングが重なるDerek VanScotenの音楽にぴったりのビジュアル表現です。
『Bloom Bap』というタイトル(Bloom:花が咲くことと、ヒップホップのジャンルBoom Bapをかけている)を、Derekが自身の音楽を表現するためにつけたのであれば、彼との会話もまた植物が生い茂っているかのようです。小さな音楽のアイデアとしての種、16小節の長いループが構成するエコシステム、創造を発展させるのに必要な太陽の光がそこに満ちています。 Ableton認定トレーナーでもあるDerekは、その十分な経験によって、創造的で美的なプロセスを表現する、多彩な方法を身に着けてきました。 DerekのYouTubeチュートリアルをはじめ、Liveセットやエフェクト・ラックのテンプレートの中には、インスピレーションが湧いてくるような、さまざまな楽器での作業が可能なセッティングや、小さなアイデアを楽曲へと発展させるヒントがあります。 今回、Derekはネオソウルギターのアンプラックを無料で公開してくれました。
Live 11 Suiteが必要です
今回のインタビューでは、Derekに最新アルバムやライブでの即興演奏の余地を残すこと、伝説的バンドDisco Biscuitsのプロデュースなどについて語ってもらいました。(聞き手:David Abravanel)
今回、優れたラックをいくつも紹介してもらいました。ギターペダルで作る音質や音色を得るための良い構成要素となるでしょう。
僕が作ったラックは、すべてひとつのチェーンにまとめられています。 実際、楽器からインターフェイス、Live、PAへとつながってるので、音量を変える以外ほかに何もしなくても、ライブ演奏できますね。 プリセットを変更するにはクリップのオートメーションが必要だけど、それはまた別の話です。 とにかく、ギタリストができるだけ余計なものを使わずに、いい音を出せるようにしたかったんです。 インターフェースやラップトップ、ヘッドフォンは誰でも持ってます。 だから、インストゥルメントやエフェクトフォルダに用意されているものだけを使って、良いギター音を提供できないだろうか? そのアイデアが元になっています。
ハードウェア、特にギターペダルでは、音の微妙な再現が難しい点についてよく耳にします。 「デジタルっぽくなってしまう」「キラキラしすぎてしまう」などと質問する生徒にはどう答えますか?
まず最初に聞き返すのは、インターフェースの前に圧縮しているかということです。 これは本当に大きな効果があります。 これはずっと前に、ギターをDIにつなげで弾いていたときに発見したんですが、インターフェースやプリアンプとか、何でもとにかくDAWに入れる前に圧縮をかけると、作業がスムーズになり、音色を作り上げるのに役立つんです。 前にいろんな人にそう言われたので、MXRのReverbを50ドルで買ってきて試したんだけど、こんなに違うんだな!と思いましたね。 真空管やスピーカーを備えたアンプと同じことが起こるから、自然に圧縮がかかるんです。 どのみちコンプレッサーをペダルボードに入れているギタリストもいるから、それはつまり二重に圧縮していて、そうすると音を出す前から圧縮かけていることになります。 だから、DIを使うギタリストがコンプレッサーをかけたっていいんです。
興味深いですね。 インターフェイスに入れる前というのは、Liveのエフェクトチェーンの最初にコンプレッサーを置くのではなく、A/Dコンバーターに接続する前ということですね。
実際は両方です。 僕はいくつもコンプレッションをかけるのが大好きなんです。 チェーン内のどこでかけたとしても、あまりたくさん圧縮するのではなく、あちこちで少しずつ圧縮することで、良いアクセントになります。
どのようにして新しいアイデアに取りかかるのですか?すぐ使えるテンプレートを用意しているのですか?
僕のユーザーライブラリはとても充実していて、よく整理されています。 だから、必要な音のプリセットにすごく早くたどり着けますよ。ひとつずつプリセット内を探していくほど忍耐強くないんです。 プリセットの検索をするくらいなら、ただギターを弾いていたほうがいい。 アンプラックはすべてひとつのフォルダに入っているから、必要なものがあればすぐに取り出せます。 言うなれば僕は、禅的に空白のキャンバスに描くのが好きなんです。 自分のLiveを開くと、ふたつの空白のMIDIトラックとふたつの空白のオーディオトラック、そして巨大なユーザーライブラリがありますね。
必要なものを比較的すぐに取り出せるように、整理に時間をかけているのですね。
ユーザーライブラリの多くは、Abletonのイベントでのグループレッスンや、マンツーマンレッスンなど教える中でできたものです。何か作ったときに「このエフェクト・ラックいいじゃん!」と思えば、エフェクトフォルダに入れるのです。
どんな感じで音楽を書いてますか? 空白のトラックや、何度も繰り返すループを前に、何をするか迷ってしまわないようにどうしていますか?
自作の16小節のドラムブレイクや8小節のギターループなど、いくつか異なるループを使って、そこからハーモニーを作って、曲を構築する実験をしたんです。 曲全体の土台はループだけど、実際に全体を通して“通作”できるかどうか試してみました。通作というのは古い用語で、まったく同じ繰り返しが存在しない音楽形式のことです。
ギターを弾きながら同時に制作することはめったにないので、自分にとって楽しい挑戦です。 ギターを弾いていると、よく“苗”のようなループのアイデアを思いつくので、あとで使うために保存しておきます。 そして、その日のうちにもっとビートを作りたい気分になったら、ギターは横に置いて、作ったループをもとにビート全体を作成します。 そのアイデアをもとに2〜6分の曲を制作するときのチャレンジは、たとえば8小節のループから作る際、通作という言葉に立ち返った場合に、正確な繰り返しがなく作れるかどうかということでした。 ループから何か切り取ったり、ピッチを変えたり、スタッターしたり、何かをつけ加えたりと、ループ素材をもっと生き生きとして、エキサイティングで、繰り返しのないものに進化させる方法はたくさんあるんですよ。
野暮ったく聞こえるかもしれませんが、楽曲制作のアレンジの段階が、あまり楽しくないというか、義務的にやっていると感じることがあります。 それに対して、どのようにアプローチしていますか?
多くのライブミュージシャンが制作プロセスの中で抱える問題ですね。 演奏活動で生計を立てているミュージシャンの中には、「始まりの部分は作るけど、完成させるのはこちらに任せないで」というような人がたくさんいます。というのも、結局のところ、そういう人たちはプログラミングが得意じゃなく、仕上げ方がわかんないだけなんですよね。
僕は1〜2時間で1曲分のドラムビートを作り上げることができるように、ビート制作のツールキットには本当に洗練されたものをそろえるようにしています。 何週間も何カ月もかけて作るものじゃないんです。 8小節のループから「これはヤバいビートだ」というところまで到達できるようになるには、それ自体が洗練されたスキルセットでもあります。 僕にそれができるのは、クラシックを勉強していたときに、同時にサンプリングベースのヒップホップに夢中になったときと似ているからでしょうね。ふたつの音楽への恋が同時に起こったので、両方うまくなりたいという動機があったんです。
現在、ループメーカーと呼ばれる専門家たちがいます。彼らは短いループを何本もすばやく作って、それらをプロデューサーに提供します。その後、プロデューサーはそれらを発展させるという一連の流れができていますよね。 では、生徒と一緒に作業するとき、素早く短いループを作るという作業の両側面について、どのように考えさせるのがいいのでしょうか?
タイマーを使って、一定の時間内に決断をさせるというエクササイズを行っています。 もし、誰かと60分のレッスンをするのであれば、「ゴールを設定しよう。 59分後に、イケてる8小節のループを完成させて欲しい。 だから、逆算してタイマーで測りながら、決断を下していく必要があるよね」という風に言います。Max for LiveのPomodoroというデバイスを使うのですが、それを画面端に置いておけばカウントダウンを見ながら作業できます。 緊張もするけど、いい練習になりますよ。 これで決断力を養いながら、個々の微細なディテールにこだわりすぎずに作業するスキルを磨けるんです。
ループを“苗”と表現していましたが、だとすると“木”とは完成した楽曲のことですか?
ループはもっと単なる種のような存在ですね、それだけでは大したものとしてとらえてないです。 発芽させ、土に植えなおし、それからも、水をやり、日光を与え続けなければならないんです。 そういったすべてのプロセスを踏まなきゃいけないのは、わりと大変なんですよね。 でも良い面もあって、発芽モードのときは、「この時間はちょっとしたアイデアを作ればいいんだ」と思えること。これは、Pack用のサンプルを作ったときにわかったことなんですが、先端部分を作るだけの発芽モードなら、全体を構築する必要はないので、あまり大きなことにコミットする必要はないのです。 たとえば、4小節のループを思いついたとしましょう。 そこにちょっとしたパートを加えます。 それで、このアイデアについては作業が終了。次の新しい4小節ループに移ることができるのです。
TikTokの『Lick of the Day』シリーズ(英語)でも、話していましたね。 8小節のループにリフをちょっと入れて、ビートテープとして使うとき、そこから曲を作る場合はどのようにしますか? どのループの構成と相性がいいのか、見極め方はありますか?
今、音楽界の多くの人々がRick Rubin(英語)の本について話していますが、それについて掘り下げています。 Rubinによると、創造的なひとつの種が電気を起こすのではないかと語っています。 実際、その答えは電気なんだと思いますね。 アイデアに電気を感じなければならないんです。 そして、それを大地に移すのです。 そのとき、熱意があったのに、なぜか庭で枯れてしまうこともあるかもしれません。 または「この種はもうだめだ」と思っていたのが、庭で一番大きな植物になることもあります。 “電気”と言ったのは、このような曖昧でスピリチュアルで音楽的なことなんです。 また、自分にとって本当に大事なのは、聞くことだと思います。 音楽のファンとして、聞くんです。 より無意識的に聞いているというか。 部屋の中を歩き回って、魂、体、心、すべてがその曲に対してポジティブな電気を帯びた反応を示すかどうかなんです。 そうやって決めますね。
楽曲を制作してから聞き返すまでに、ある程度の距離が必要だと感じますか? とくに、部分的に聞くのではなく、全体として聞くために。
27分であろうと27日間であろうと、休憩を取ることで視野が広がりますね。ずっと聞いている間は、その音楽の“ファン”ではなくなっちゃってますから。 長編のリリース楽曲に取り組んでいるときによくやるのは、個人的なSoundCloudのプレイリストを作って、マウンテンバイクに乗り、AirPodsでファンとしての気持ちで聞いてみることです。 地面を走っているときに、その前の曲と比較して新しい曲を聞いているときの自分の反応を確認します。 スムーズな流れていくか? 画面を見つめて制作してたときには、考えもしなかった変化があるか?とかね。
『Bloom Bap』の一曲目、“Junior High Dance”を最初に作ったときは、もっと早く、5小節目か9小節目にはビートが入ってきてたんです。 でも、マウンテンバイクに乗って聞いていたとき、「ちょっと早すぎるなあ。 もうちょっと最初の遊びが欲しいし、ゆっくりクレッシェンドかけたい」と思いました。
それは、Emancipatorとの大規模なコラボレーションでしたが、作業し始めたときの曲から、何回も生まれ変わったんです。 実際、ライブで“Junior High Dance”を演奏するときに、ボーカルではなくビートで始まるバージョンもあります。 あるとき、あるアイデアを思いついた後、仰向けに倒れました。そのアイデアとはドラムから始めないことだったんだけど、どうすればいいかわからなかったんです。 でもそれから、間違って何個かをミュートしてしまったら、ボーカルだけになったんです。そのとき「ああ、これだ!」ってなりました。
Cloudchord x Emancipator - “Junior High Dance”のステムをダウンロードする
【注意】本Liveセットおよび収録サンプルは教育利用のみを目的としており、商業目的での利用は一切認められておりません。
ライブ演奏時に、瞬間ごとどの楽器や要素の演奏に集中するかを、どう選んでいますか?
結局のところ、人々がライブに行くのは、リフレッシュしたり感動したりしたいからでしょう? だから自分にとって、それが答えの大部分なんです。 曲を演奏するとき、その曲のどの部分が、演奏という点で、一番みんなをビックリさせられるだろうと考えるんです。 ある曲ではギターを弾かないこともありますね。Pushの方がカッコいい要素が出せるから。 あるいは、ギターのループだけで始めるのもいいですね。
多くの場合、ギターループだけでライブを始めるんです。シンプルなものから始めて、数分後には本格的な楽曲に入ります。 これも流れが大事なんです。たとえ爆発的なイケてるギター演奏をしたとしても、27分後にはみんな変化を求めている。 だから、いろいろな要素を混ぜるために、次の4分間は完全にギターをなくして、ラップスチールギターとPushだけを演奏するかもしれません。
2週間前にアイスランドに行ったとき、The Disco BiscuitsのギタリストでメインソングライターであるJon the Barberがこう言ったんです。「君の音楽のサウンドからすると、もっと未来感あるギターを弾かないのが不思議だよ」ってね。そのとき僕は「自分の音楽はいわゆるライブバンドと比べれば未来的サウンドだから、逆行してアーチトップとかホロウボディーのギターを使うのが好きなんですよ。自分のことは、Wes Montgomeryと今どきのヒップホップ制作者を混ぜたような存在だと思っていますから」と言ったんです。
The Disco Buscuitsの話をしたのは興味深いですね。自分が聞いた最初のジャムバンドのひとつでもあるのですが、アルバム制作にコンピュータを使ったことで話題になり(英語)、その後、さまざまなジャンルやテクニックを駆使したことで名を馳せましたよね。
そうですね。 それがまさに、彼らのプロデューサーになった理由です。最初はAbletonのアドバイザーとして雇われたんですけどね。 ステージで新しいことをしたくて、Linkを使っていましたよ。 各メンバーはそれぞれのLiveを持っていて、ライブバンドにダンスミュージックの音を取り入れようと、冒険的なことをしていたんです。 それから、パンデミックが起きて、すべてが変わってしまいました。 彼らはツアーをあんまりしていなかったから、僕は最初はツアーのアドバイスをしていていました。でも、それから、一緒に制作をするのが好きになって、ひとつのことをやっているうちに次につながり、10年ぶりのアルバムをプロデュースすることになったんです。
様々な音楽を勉強してきたと思いますが、どのような経緯で音楽に目覚め、現在は、エレクトロニックミュージックでギターを弾くようになったのですか?
ギターヒーローになりたくて音楽を始めたんですよ。 ロックンロールの時代から70〜80年代まで、あらゆる世代のギタリストに影響を受けました。 異質さと破壊力がたまらなくて、グランジも大好きでしたね。 クラシックも好きだし、 あと、Béla Fleckなんかも僕のヒーローですね。
若い頃はバーでロックを演奏し、大学では音楽制作を学びました。その後さらに分野を広げ、クラシック音楽を勉強しました。 面白いことに、クラシックをやっていたとき、サンプルをベースにしたヒップホップも好きになったんです。 それは、人生の中で同時進行的に起こっていました。 昼間に学んでいるクラシックを、サンプルベースのヒップホップという月明かりで照らしているような気分でした。 でも最終的にはそのすべてが、スタイルにこだわる者として、自分を特徴づけてくれました。 中でも、本当に心に響いたのは、偉大なミュージシャンをサンプリングしたサンプルベースのヒップホップでした。 MIDIでもありません。 たとえば、Guruの『Jazzmatazz』は、George BensonやWes Montgomeryを研究している自分にとっては、本当に心に響くアルバムでした。 エッジが効いているんです。そのすべてを通して、自分もいつも即興演奏の演奏者であろうとしてきました。
結局のところ、それはビートメイクにもつながっていて、即興的な手法をとっているんです。 いろいろ試してみる。 そして、自分の慣れたやり方さえも破壊するんです。
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文・インタビュー:David Abravanel