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Aril Brikha:LiveとNoteを使って“Groove la' Chord”をリメイク
ヒット作を生み出すための公式とは? それは才能、制作アイデア、長年にわたる経験のバランスだろうか? それとも単に運がいいから、もしくは何か大きな力が働いた結果もたらされるのだろうか? コールリッジやシェリーなどのロマン派の詩人たちは、神聖なまたは神秘的な「風」に魂が同調することが芸術的な構想のために必要だと考えていたという。 古代ギリシャでは、無意識のうちに創造的な才能が爆発するのは文学、科学、芸術の女神であるムーサによるものだと信じられていた。 真実がどうあれ、このこの古くからの疑問に明確な答えがないことは明らかだろう。
ではその代わりにすでにヒットしている作品を作り直すとしたらどうだろう? もし以前行われたこととまったく同じことをすると結果は同じになるのだろうか? 奇跡を2度起こすことはできるのだろうか? Aril Brikhaにやってみてもらえないかと依頼した。 イラン生まれの同プロデューサーは何と言っても、ヒット作を生み出す術を心得ているはずだろう。 彼はデトロイトテクノの象徴的なアンセムのひとつである“Groove la' Chord”を作曲している。
XLR8Rとの共同による特集として、Brikhaに“Groove la' Chord”の制作について、そして今回のLiveとNoteを使用したリメイクの体験についてインタビューを行った。 さらに、制作過程を直接見ることのできる本人提供のLiveセットとNoteセットもダウンロード可能となっている。
Aril Brikhaが“Groove la' Chord”のリメイクに使用したLiveセットのダウンロードはこちらから*
*利用するには、Live 11 Suite、もしくは無償体験版が必要になります。
Aril Brikhaが“Groove la' Chord”のリメイクに使用したNoteセットのダウンロードはこちらから*
*利用するには、iOS 15以降のiOSデバイスでNoteが必要になります。 または、Live 11 Suiteまたは無償体験版でNoteセットを開くこともできます。
【注意】本Liveセット、Noteセットおよび収録サンプルは教育利用のみを目的としており、商業目的での利用は一切認められておりません。
本チャレンジに協力してもらい、ありがとうございます。 始める前に、まずは音楽制作を始めたきっかけを教えてくれますか?
父がとても音楽に興味を持っていました。 7歳のときにキーボードをもらったんです。 まあ、父は実際にはそのキーボードを自分のために買ったんだろうけど、私のものとなるはずでした。 10代の前半までは、ほとんどMTVで80年代のポップミュージックを聞くだけでした。 しかし、好きだったのはすべてがエレクトロニックミュージックだったんです。 Depeche Modeの“Behind the Wheel”が、しっかりとしたキックドラムがある曲として覚えている最初の曲でした。
ストックホルム郊外のヨンショーピングという小さな街で育ったので、アイデアを出し合ったり、学び合ったりする仲間がいなかったんです。 その当時はインターネットはなく雑誌もほとんどないので、独学で音楽制作について学びました。 それでも、よくレコードを買っている友人は何人かいました。 やがて、彼らは私が作っていた音楽がデトロイトテクノと呼ばれるものだと教えてくれました。
ではデトロイトテクノというものがあることを知らずに作っていたのですか?
もちろん知らなかっただろうと思います。ヨンショーピングには国営のラジオチャンネルであるP3というものしかなくて、クラブ音楽が流れるのはまれでした。 ですから、そのころはDepeche Modeの哀愁さとメロディー、Nitzer EbbとKraftwerkの持つエネルギーを参考にしていました。 正確な時系列はわからなく、 デトロイトテクノを自分が発明したとは言いません。 そのころはEBMが流行っていました。 そして、やはりEBMはメロディーを除けば、テクノの初期に非常に近いと今でも思います。 これがリメイクしようとしていたものです。 DJはしなかったし、レコードを集めたり、サンプルをしたりはしなかったです。 シーケンサーと機材を持っていただけで、それらを使って何かを作るということをやってきたのです。
そのころに初めて触ったシンセやドラムマシンは何でしたか?
初めて手にしたシンセはEnsoniq SQ80(英語)でした。 エレクトロニックミュージックについて何も知らないうちから、それをプログラミングする方法について学ぼうとしていました。 ただレコードやパーティーで聞いたことがあるようなものを作ってみるということをやっていました。 Robert Hood(英語)やBasic Channel(英語)のようなミニマルな音をより好んでいたようでした。 SQ80はRoland Junoのように指先で操作するシンセとは違って、 メニューに入り込んでいく必要がありました。 自分がどのシンセを使っているかを教えると買いに行く人もいるでしょう。 しかし、1週間後には「メニューはどうやったら理解できるんだ?」と言って捨ててしまうかもしれません。 それでも、それが不可能と思われるシンセのプログラミング方法を学ぶことの素晴らしさでした。 信念なのか運命なのか、結局そうなっていったのです。 恐らく、Adamski(英語)が、Ensoniq SQ80を使ったもっとも有名な人物でしょう。 彼の“Killer”という曲を聞いて、「ちょっと待てよ。 このスタブを知っているぞ」と思ったことを覚えています。
SQ80と一緒に、808(英語)と909(英語)のキットが収録されたRolandのデジタル・ドラムマシンR8(英語)も持っていました。 そして90年代半ばのある日、Roland System 100、Roland 808、303(英語)、Yamaha CS-5をエレキギターと一緒に売っている人の広告を見たんです。 そして、それらのすべてを400ドルで手に入れました。 それがこのようにして何とか大当たりを引き当てることができた時代の終わりの時期でした。
「“Groove la' Chord”はすべてライブ録音で作られました。 あの日、DAT機器の録音を押さなかったら、存在していなかったでしょう。」
最初にリリースしたレコードはどのようなものでしたか?
最初のリリースは、PTSという地元のレーベルからでした。 その後、Svekのようなスウェーデンのレーベルから自分の音楽をリリースするようになっていきました。 そして、デモをF Communications(英語)とSoma(英語)に送ったんですが、 どちらにも受け入れられませんでした。 それで、最後の手段として、「もういいや、この音楽が行くべき場所であるデトロイトにデモを送ろう」と思ったんです。 430 West(英語)とTransmatの両方が3日以内には返事をくれて、とても驚きました。ヨーロッパでは自分の音楽をリリースしようと3年間も費やしていたからです。 最初の作品はTransmatのサブレーベルである Fragileからリリースしました。 そのアルバムは、『Art of Vengence EP』というタイトルで、“Groove la' Chord”も収録されていました。
それに続くこととなった“Groove la' Chord”の成功には驚きましたか?
全然理解できませんでした。 「この曲のことは知っているから、世に出れば人々に理解されるだろう」といったような感じではなくて、その曲に期待さえしていませんでした。 なので、レーベルから連絡が来て彼らが欲しがっていたのがその曲だったので、驚かされました。 彼らがまったくわかっていないのかと思っていました。 ですが、A面は彼らにまかせてB面は自分で選んだんです。 もちろん誰もB面については覚えていないでしょうね。 みんなA面を覚えているんです。
すみません、B面はどのようなものでしたか?
だよね!(笑) “Way Back”という曲です。 その当時、自分が目指していた音に本当に近いと感じたものでした。 “Groove la' Chord”のように反復的な曲ではありましたが、 自分にとって“Groove la' Chord”は、愚かな単なる偶然によってできたものだったんです。 “Groove la' Chord”はすべてライブ録音で作られました。 あの日、DAT機器の録音を押さなかったら、存在していなかったでしょう。 デモになったことさえ奇跡だったんです。 その時には、この曲の持つ商業的な可能性を感じることができませんでした。それは明らかに、DJやA&Rとしての私のすべてを物語っていますね。 そうして、レーベルには「いいですよ、A面は選んでください。B面は自分で選ぶので、どちらがヒットするか見てみましょう」と言ったんです。 彼らが正しかったですね。
振り返ってみて、“Groove la' Chord”が成功することとなったのはなぜだったと思いますか?
それは、あの曲の完全なまでの単純さにあると思います。 余分なものが一切ありません。 聞こえる音はすべてRoland R8のドラムマシンで作られています。 ビートとベースラインです。 コードだけがEnsoniq SQ8からの音になっています。 ズルをしているような気分でしたね。 LiveとNoteでこの曲をリメイクした時も同じ感覚になりました。 単純すぎるので、こうゆうもので満足してしまうことは自分の人生においてはないでしょう。 そして、これがこの曲の前にも後にも自分の問題だったと思っています。 いつも音楽を作り込みすぎたり、多くのものを付け加えすぎてしまいます。 音楽制作をする人ならどうゆうことかわかると思います。 「この曲はこれだけでいいんだ」という風に何も他にいらないことを理解するために必要な勇気と耳を持つことだけだと思うんです。 “Groove la' Chord”は、文字通りフィルターを開閉したり、ライドを付け加えたり外したりして緊張感を生み出しているだけです。 こうした基本的な仕掛けがあるからこそ、その勢いが保てるのです。 もし1小節だけリピート再生しただけだとしたら、すごくつまらないものになっていたでしょう。 実際にリアルタイムで曲を演奏するための戦術的な一面があったからこそ、面白い音になったのだと思います。
“Groove la' Chord”は、その当時リリースされた作品をどのように引き立たせていたと思いますか?
当時はすべてがニューヨークハウスかテクノのどちらかだったのですが、“Groove la' Chord”はクロスオーバーでのヒット作となりました。 橋渡しとなるものを狙っていたわけではありません。 ハウスミュージックも好きだったし、テクノも好きだったし、その間にあるものすべてが好きでした。 しかし、気づいたらハウスDJは“Groove la' Chord”をピッチを下げてかけて、テクノのDJはそのままかけるようになっていました。 デトロイトではゲットーテックというジャンルがあって、45回転で“Groove la' Chord”をかけていましたよ。 なので、なぜかみんながこの曲をかけるようになっていったんです。 これを知ったのは1年以上たった後のことでした。レビューを読んだときのことです。 その当時は、雑誌がシングルを取り上げてレビューを書くのにそれくらいの時間がかかっていたんです。 そして、レビューの後にはより多くの人が作品を買うようになっていたのです。
なので、単純さが概念的な成功と、もしかするとジャンルのクロスオーバーをもたらしたのかもしれません。 François K(英語)などのアーティストは何度も連続でこの曲をかけていたそうです。 このレコードを2枚もっていて、30分間かけ続けていたと聞いたことがあります。 そして、最近のDJはこの曲をかけながら他の音を足していっています。 他の曲との相性もいいんです。 ツールのようなものですね。
「気にせずに、全部を赤まで押し上げました。」
“Groove la' Chord”のパートは当時どのように録音していましたか?
スタジオでは、DAWもなく、ミックスを呼び出すこともできませんでした。 その瞬間の雰囲気をとらえるということがすべてでした。 アレンジメントを作らない場合においては特にです。 当時はそうゆう風には作っていなかったし、今でも直線的な方法で作業をすることはありません。 いつもLiveのセッションビューで作業をしています。 当時のセットアップはシンプルなものでした。 Fostex 812(英語)のミキシングデスク、Alesis QudraVerb(英語)、そしてYamaha R100のディレイでした。 Roland R8は、ミキサーの1つのチャンネルに音のグループが入るようになっていました。 この曲では、808のキックをチューニングダウンして、クラップとライドを加えたものでした。 そして、このチャンネルは過飽和状態だったので、ライドを入れてみるとすべてが歯切れよくなり、いい感じになりました。
ミキサーのチャンネルをオーバードライブさせるだけでサチュレーションが得られたのですか?
その通りです。 そして、音声信号をディレイユニットにオーバーライドして、テクスチャーを与えていました。 基本的にあまり見ずに、耳で聞いて面白い音が出るまでいじって調整していました。 ある日、Jesper Dahlbäck(英語)が通りがかりに、私のミキサーがすべて赤になっていたのを見たとき、「こうやってやってはいけないんだよ」と言われたんですが、私は「でもいい音が鳴っている」と言いました。 「まあ、でもそれはしてはいけないんだ」と彼は言いました。 気にせずに、全部を赤まで押し上げました。
フィルターの開閉によってコードに緊張感を与えたとのことですが、 曲の面白みを保つためにリアルタイムで調整していた他のパラメータにはどのようなものがありましたか?
EQで中音域をスイープさせることに非常にこだわっています。 コードに動きをもたらすために操作していきます。 Fostex 812ミキサーを買ったのは、特に中音域がスイープできるからでした。
また、キックのサブ周波数はしばらくフィルターで削っておきました。 曲が始まってから2〜3分後になって、実際にキックのサブが鳴ります。 そして、そうしていたのは意図していたことでした。 ミックスされているときはいい音になるようにしていて、3分後にはドーンと鳴ります。 クラブだと、それが本当に起きているのが見えるのですごいです。 当時はしっかりとしたマスタリングもなく大きい音もほとんど無かったので、とてもインパクトがありました。
満足のいく曲に仕上がるまで、何テイク録音する必要があったのでしょうか?
2回か3回だったと思います。 でも残したのは最初のものでした。 エディットもポストプロダクションもなしでした。 DATにそのまま録音しただけです。 よりしっかりとしたものを作るためにもう一度やってみるべきかなと思いました。 特定の小節やインターバルの後に、ライドを落としたり、フィルターをいじったりしていないのが聞いてわかったからです。 実際にレコードを聴いて、いろいろ数えてみるとどれも理にかなっていないのです。 なので再録音してみました。 しかし、最初のテイクほどエネルギーのあるものにはなりませんでした。 偶然の産物だったのです。10分かけてDATに録音していたのは時間を浪費していただけでした。 でもその無駄にした10分は非常に幸運なものでした。
“Groove la' Chord”がヒットした後にツアーも始め、ライブで演奏もしていましたね?
はい。 基本的にはTransmatから彼らのアメリカツアーとヨーロッパツアーに帯同するようお願いされたんです。 Akai MPC 2000(英語)を買うことになったので、Roland R8からすべてのドラムの音を入れました。 Ensoniq SQ80は持っていきました。そして家で演奏するようにやっただけです。 そして最終的にはMPCからAbleton Liveを使うようになりました。まだMIDIがサポートされていなかったときのことです。 なので、すべてハードウェアから録音しました。 ありがたいことに、“Groove la' Chord”は自分が作った曲の中で一番知名度が高いものなので、この曲をやるとほとんどの人は気づいてくれます。 もちろんもう25年もやっているので、同じ曲の別バージョンを試してみたりもしています。 遅くしたり、マッシュアップにしたりです。 でも、実際にオリジナルと同じように演奏するのはとても難しいんです。 そして、それは最近にLiveとNoteでリメイクしたときにも感じたことでした。 同じ3つのチャンネルに限定してしまうと、面白味を2分以上保つのがなかなか難しいんです。 音にわずかな変化を加え続けなければいけない、少なくとも自分はそうします。なので、ビートの上の同じコードを何回も聞いても嫌にはなりません。
ステージでライブをするときのセットアップはどのようなものですか?
何年も前からですが、今は完全にAbleton Liveのセットアップです。 Roland TR8とLivid Codeコントローラ、そしてLaunch Padも使います。 ほとんどそれですべてですね。 Live内でアレンジメントは使いません。 各曲がセッションビューの1シーンになっています。 キックドラム、ハイハット、ベースライン、パーカッション、コードと、すべてが分離されています。 いくつかの曲ではVSTチャンネルを2つか3つ開きます。 VSTインストゥルメントの録音は使いません。 可能な限り、最初に曲ができたときと同じ方法で演奏しようとしています。
自分がパフォーマンスをしているときには、半分くらいの人はライブなのかDJなのかわからないと思います。 それでも、用意されたアレンジメントやビルドアップは使わないことにこだわっています。 ズルをしたり、楽をしたりするためのシーンはありません。 たまに失敗することもありますね。ウイスキーが良すぎたりしたら。 時にはいいウイスキーのおかげで最高のセットができることもあります。
Liveのデバイスでリメイクするときに、オリジナルの“Groove la' Chord”で使用したハードウェアの音を再現するのはどのくらい難しかったですか?
ある意味では難しかったし、ある意味では簡単でした。 Roland R8のドラムマシンの909と808キットは完全に本物のようには聞こえませんでした。 90年代の買った当時はショックでした。 でも、結果的にはそれがどういうわけか、自分にとっていい方に向かっていきました。 デチューンだけでなく、ニュアンスの違いやキャラクターの設定など、ダイヤルを操作することでドラムの音を操ることができます。 Liveでそれを再現しようとはしませんでした。 ただソフトウェア内にある従来の808と909のキットを使っただけです。 R8よりも本物の909や808のような音がするんです。
Liveで最初に行ったことは、オリジナルを作ったときと同じことでした。 808のキックとクラップを入れただけです。 EQはほとんどしていません。 音作りはほとんどSaturatorデバイスで行われました。 もちろんSaturatorは自分の古いFostexのミキサーと同じ音がするわけではありません。 なので、オリジナルの完璧なクローンを作るのではなく、今あるものでできるだけいいものを作ろうとしました。 Saturatorのドライブをプッシュして、倍音を作ったりして似たようなエフェクトを作り出しました。 また、R8のメイン出力をまねてLiveのチャンネルをグループ化することにしました。 もともとキックドラムはR8のメイン出力の左右から出ていました。 それ以外のものはすべて別の出力からで、Fostexのミキサーのゲインを通していたので同じディストーションとサチュレーションがかかっていました。
オリジナルでは、マスターに安物のBehringerのコンプレッサーもつけていました。 そのときはコンプレッサーがどうゆうもので何をするのかについてはほとんど知らなかったのですが、ただみんな持っていました。 Daft Punkが持っていること、テクノのトップアーティストたちが持っていたこと、そしてあの生き生きとした音にコンプレッサーが必要だということを聞いたんです。 なので、 コンプレッサーを買ってマスターにつけました。 サウンドエンジニアからすれば、笑われるか、おかしなセッティングだと言われるかもしれませんが、すべてがつながるまでいじっていきました。 いつもDAWではすべてをつなげることに苦労します。 Behringerのコンプレッサーをマスターにつけると、スイートスポットに全部プッシュするだけでいいんです。 それにより、音と音の間に緊張感がもたらされます。
808のベースキックが効いてくると909のライドが音量的にダッキングするように感じます。 何かしらサイドチェインの処理がされているのでしょうか?
いいえ、これこそまさにつながりの話で話していたことですよ。 それは純粋にライドが低音と空間を取り合うからなんです。 サチュレーションのかかったひとつのグループのチャンネルに入ることによります。 こうしてダッキングが起こるんです。 オリジナルでも今回のプロジェクトでもサイドチェインされたものはありません。
あの有名なコードはLiveでどのようにリメイクしましたか?
Liveのウェーブテーブルシンセを使ってコードをリメイクしました。 ウェーブテーブルを見ると、オシレーター2は7半音分デチューンされていて、これは単なるマイナーコードではなく、セブンス・コードであることを意味します。 これは以前にEnsoniq SQ80でやったのとまったく同じ方法です。 当時は音楽理論について知らなかったので、ただただ実験するのみでした。 SQ80は学ぶうえでもっとも簡単な、もしくはもっとも論理的なシンセではありませんが、自分のシンセがどのような音がするのかを知ることの重要性を教えてくれました。 今では寝ながらでもいじることができますね。 何かをしようとしたときにどうすればいいかがわかっています。
Liveセットでコードを見ると、EQ Eightが設定されていて中音域がスイープできるようになっているのがわかるかと思います。 いつもはEQ Eightの3のフィルターを上げてマクロにマッピングします。 そして、その周波数をスイープして、このようなダブのコードを作ることができるのです。 すべてがスイープ可能な中音域にあります。
また、何とかSQ80でコードパターンを再録音することができました。 Liveセットに入れてあるので、違いを聞くことができます。
Liveの中で、フィルターが閉じられると音が短くなるため、コードがフィルターのエンベロープにルーティングされているように聞こえます。 ここで何が起こっているのか教えてくれますか?
この音を形作るうえでエンベロープとフィルターは重要な役割を果たしています。 実はまだ、フィルターのエンベロープとその反応の仕方をいじったりして、よりオリジナルに近づけたいんです。 できたものには85%満足しています。 手がふたつしかなくてすべてライブでやる必要があると、多くのことを変えたくはないんです。 なので、エンベロープのディケイとリリースの設定はリアルタイムではいじっていません。 文字通りフィルターのカットオフを開けるのと、レゾナンスを加えただけです。 それを実現するためには、カットオフが閉じられているときに、コードが意図した音を正確に出すためのエンベロープが必要になります。 Liveでそれを完全に再現することはできませんでした。 しかし、Liveのいいところは、カットオフ周波数の最小値をマクロで制限できることなんです。 これは非常に役に立ちました。
エンベロープ上での動きや、フィルターが開いているときにオリジナルにどう効いているのかを聞くことができます。 また、コードには残響音があり、フィルターに影響を与えていました。 そして、フィルターを開くと、とても鋭いアタックが得られました。 このような小さなことがすべて音作りにつながるのです。
Liveのオートメーションの録音すべてにコントローラを使いましたか?
はい。 今回は8つのパッド、スライダー、ノブのついたAlesisのキーボードを使いました。 Liveではミキシングデスクのようになるように、3つのチャンネルのボリュームにスライダーを割り当てました。 それにより、ビートを徐々に上げることができるんです。
コードトラックに対してAuto Panデバイスはどのような効果がありますか?
Auto Panは、同じコードを何度聞いても耳が疲れないように、そのような動きを再現するためにあります。 Ensoniq SQ8では、アンプにLFOを付けて、こういった幅と動きを作り出します。
リバーブのリターントラックに対してフェイザーデバイスはどのような効果をもたらしますか?
オリジナルで使ったAlesis QuadraVerbのエフェクトを再現しようとしました。 オリジナルのイントロを聴くと、その音がはっきりと聞き取れます。 コードのベースとクラップのグループ両方にかかっています。 これもまた動きを出すためのものです。 QuadraVerbによって、音にゆっくりと変化するモジュレーションが効いていました。 元々はリバーブ、コーロスと何かしらのフェイザーとフランジャーだったと思います。 これを再現するためにLiveのフェイザーをプリセット“Acoustic Cascade”のリターントラックに使いました。
それでは、Noteでリメイクされたバージョンの“Groove la' Chord”を見ていきましょう。 このアプリを使ってビートをプログラミングする作業についてはどうでしたか?
オリジナルの133 BPMは、iPhoneでビートを刻むには少し速すぎたので、Noteでメトロノームを少し遅めに設定しました。 そして繰り返しになりますが、可能な限りオリジナルの制作プロセスを再現するようにしました。 つまり、ベースラインと808キットとクラップをパンチインして、同じように組み立てていくだけです。
Noteで808のKit FXにディレイを加えたのはなぜですか?
ディレイによって、キックドラムにモジュレーションとリズムのグルーヴももたらされるからです。 オリジナルではYamaha R100のディレイを使ったかと思います。 しかしNoteのこのディレイは特に、アプリ本来の使い方で使うようにしました。つまり、自分の持っているアイデアを実現するためのスケッチツールとして、今回の場合は25年前のアイデアを再現するためのものでした。 とにかくリズムをつかむことが重要でした。 オリジナルのキックドラムパターンがどのように使われているかはわかっています。 ドライ/ウェットを無くしてしまうとグルーヴがなくなります。 ディレイをどの程度かければ曲の実体とパンチを失わずに十分なリズムが得られるか、そのバランスを見極める必要がありました。
Noteのコードの音に“Mellow Tine Keys”のプリセットを使用したのはなぜでしたか?
5か7半音分デチューンされたシンセのプリセットが欲しかったんです。 プリセットのフィルターのエンベロープにはLiveで使ったのと同じマクロはありませんでしたが、ディケイとリリースの設定を調整すると似たようなエフェクトが得られました。
コードにNoteのフランジャーエフェクトを使った感想はどうでしたか?
これも同様に、フランジャーのモジュレーションのスピードとドライ/ウェットのバランスを見極めることを目指しました。 普段はミキシングデスクで、エフェクターを100%ウェットにして、センドを使います。 古いダブのミキシングのやり方が慣れているんだと思います。
Noteには、コードトラック上に少しずつ異なるクリップを持つシーンがありますね。 ここでは何が起こっていますか?
最初のシーンでは、クリップはオートメーションされていません。 しかし、2つ目のシーンはコードが開くところにオートメーションを記録しました。 後で別のシーンを作って、パルス幅をゆっくり上下させるつもりです。スイープ可能な中音域を微調整するような感じで行います。 あとは、Liveのセッションビューのようにシーンをもっと作っていく予定です。 シーン1はキックだけのイントロになります。 808とコードはシーン2から使います。 シーン3では、すべでのものが再生されます。 そしてそれに続くシーンではフィルターを開けてから閉めていきます。
“Groove la' Chord”の素晴らしい話を聞かせてくれてありがとうございました。 2023年の展望はどのようなものですか?
パンデミックの直前にレストランを開いて、最近になって離れることになったので、今はスタジオに戻ってまた音楽制作に取り組むことを楽しみにしています。 『Dance of a Trillion Stars』と『Prisma』の2作のアルバム以降、音楽をリリースしていませんでした。 これらのアルバムは2020年にMulemusiqからリリースされました。 しかし、パンデミックの中リリースされて行き場を失ってしまったんです。
最近はめったに音楽を作りません。 個人的にはプレッシャーを感じたり目的を持たずにできる環境の方がいいですね。 年齢を重ねれば重ねるほど、知識と長年の練習の積み重ねによって簡単に作曲できるようになると思われるかもしれません。 しかし、「これをやってはいけない、こうするべきだ」という形でより多くの障壁ができてしまったように感じます。 なので今後の目標は、もう一度結果を期待せずにただ自分のために音を作ることの喜びを見つけることです。 それが10代のときに、何をすればいいかわからずにやっていたことです。 そうやって自分の寝室で、ヘッドホンを付けて、自分のためだけに“Groove la' Chord”を作ったんです。
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文/インタビュー:Joseph Joyce
本記事はXLR8Rにも別バージョンが掲載されています。