遊び心を感じさせる「R U OK」、2012年のイマーシブなミックス「_ground」などの良質なリリースで、Ambivalent名義で活躍するKevin McHughは、ミニマル/テクノ・ミュージック界で一流ミュージシャンのリストに名を連ねています。Kevinは長年にわたるLiveユーザーでもあり、スタジオ制作、ライブ・パフォーマンス、DJセットの一部としても使用しています。
Octopus Recordingsからの最新リリース「Blackfish EP」と同時に、Kevinは新曲「Hexen」の主要サウンドとシーケンスをフィーチャーした無償Liveセットを公開しました(注:使用にはLive 9 Suiteが必要です)。AbletonはKevinにインタビューを行い、「Hexen」のサウンド・デザイン、ミニマル・ミュージック制作における苦労、完全五度の美しさについて話を聞きました。
「Hexen」では数少ないパートが効果的に使用されていますが、この制約がトラックにスリリングさを与えているように思えます。トラックのパート数の判断の決め手となるのは何ですか?
「シンプルであることは簡単だ」などと言う人にかぎって、間違ったことをやっているのではないかと思います。私も同じで、しっかり理解できているとは断言できません。制作における自制はてこずる事柄のひとつです。アイデアには複雑さが必要になることもありますが、重要なのは、「今加えようとしているこれは、最終形に必要なものなのか?」という問いを投げかけることです。私はこの問いをプロセスの早い段階で投げかけるようにしています。完全なアイデアがありながら、そこから逸脱する余地のある状態に達することができればいいですね。欠かせない要素を取り出し、その声を優れたアレンジとして形にすることが重要です。切りのいいところに到達するまで、出来の良し悪しについて自問しないように気を付けています。何週間もかけても完成しない考えすぎのループ1つが出来上がるより、完成させたトラック10つをあきらめる方がましです。
「Hexen」のアレンジでは、クリップとエフェクトは生で演奏したのでしょうか?それとも手動で編集されたのですか?通常、アレンジはどのように行っていますか?
Live Packにはオリジナルのセッションと同じシステムを使用しています。キーボードを使って演奏したあるアイデア(シンプルなペンタトニックのリフ)からスタートし、他のシンセを加えてレイヤーを追加しました。その後、AbletonのMIDIツールChordを使用して各シンセに完全五度とオクターブを追加し、シンプルさを保ちながら、ハーモニーに厚みを与えました。元となるツールが同じなので、オリジナルのセッションをこのLive Packで再現するのはとても簡単でした。
「Hexen」では、和音に3種のシンセがレイヤーされています。各レイヤーのサウンドのデザインについてお聞かせください。
オリジナルのトラックにある外部シンセで使用したパッチのいくつかを再現しようと考えました。オリジナルでもレイヤーされていたものです。Abletonシンセにも同じパワーがあり、場合によっては私が使用したオリジナルのシンセより機能に優れています。アナログ機器とデジタル機器の違いは、単に好みの問題だと思っています。あるインストゥルメントで別のインストゥルメントを再現しようとする試みはなかなか面白いものでした。どれほど重複するものなのか理解することができました。レイヤーにより、シャープでアタックの強いサウンド、オリジナルのパッチで気に入っていたエンベロープや波形を残すことができました。その一部は、特定のパッチの進化具合とアレンジ内の別のボイスによる強化の必要度により決まります。Operatorのインスタンスのひとつはすばらしいのですが、他が変化を続けるのに対して、こちらは変化しません。Analogのインスタンスはハーモニーを強化するために置かれていますが、他を打ち消してしまうようなことはありません。
パッチの設定が完了したら、Dynamic Tubeツールで少し色づけし、プリアンプなどのサウンドを再現していきました。その優れた再現能力には驚きました。
Ambivalentの「Hexen」のコード進行
コードの複雑度もトラック内で変化しています。これについてもお聞かせいただけますか?
常々思うのですが、アイデアについて考える際、最も重要な場面は、そのアイデアがどこまで広がるものなのかを試すときだと思います。そういう意味で、テクノは、あるフレーズから最後の一滴までアイデアを絞り出すのに適しています。このトラックは、このフレーズからドラマとストーリーを生み出す試みでした。目新しいことは何もありません ― 私より上手くやれたアーティストはたくさんいるはずです ― ただ、一定のゾーンだけにとどまるべきフックではないように感じられました。私が求めていたのはジェットコースターでした。行き先のわからないまま上へ上へと引っ張り上げられ、ゼロ地点に突き落とされ、またスタートするというような感覚です。
ハイハットはAnalogでシンセサイズされています。このような形でドラムをシンセサイズすることは多いのですか?サンプリングではなくシンセサイズすることの利点とは何でしょうか?
オリジナルのセッションはVermona DRM1を使用して録音されていて、ハイハット・ボイスのディケイとフィルターをオープンにしたライブ・テイクを録音しました。コントロールを触りながらアレンジに合わせて演奏するのはとても楽しかったですよ。Analogプラグインは自然な選択でした。ノイズ・フィルターとエンベロープというクラシックな構造とサウンドを持っていますからね。ここでもDynamic Tubeを使用してオリジナルで用いたシグナル・チェーンをエミュレートしました。Live Packのアレンジ・セクションのオートメーションと自分のライブ・スタジオ・レコーディングが近づくよう努力しました。
ベースのトラックでのおさまりがいいですね。EQが効果的に使用されているように思えます。これについて詳しくお話しいただけますか?
ベースの倍音には長い間苦労してきました。特に、キック・ドラムに合わせて調整する際は大変でした。トラックの出来はそこにかかっているといっても過言ではないでしょう。ベースは十分な倍音の幅が必要ですが、ミックス全体を支配してしまうことがあってはいけないし、キックがしっかり抜けるよう余裕を持たせなければなりません。このトラックでは、キックの基音と二次倍音の周波数をベースから引き出し、ベースラインのリーチがローミッドにおさまるようにしました。これで、シンセ・レイヤーの副倍音のじゃまをせず、私の好きなブーミーなサウンドを聴かせることができます。ベースがリードと同じピッチを追うようにすることで交差するポイントを見つけ、ベースのローパス・フィルターと、リードのハイパスとシェルフをそれぞれ設定することができます。少しだけサイドチェーンをかけるとキックに余裕ができ、ふくらみが強調されすぎることがありません(多少の膨張感はありますが)。サイドチェーンには、ソースがデジタルであるかアナログであるかにかかわらず、いつもAbletonのコンプレッサーを使用しています。シンプルで、機能と透過性に優れたツールです。Abletonのエフェクトでのサイドチェーンはすばやく簡単に設定できますし、またLive 9のEQにはハイパスとローパス用のシェイパー・カーブ、スペクトル表示、ミッド/サイド処理などの便利な新機能がたくさん搭載されています。
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